ドラゴン→吉川 第一信(復)午後四時半のビール

 吉川くん、元気ですか?
 ぼくはあんまり元気じゃないです。ひどいもんです。花粉症です。
 今年の花粉の量は例年に比べるとかなり少ないといわれてるんだけど、もう症状が出はじめています。まだ二月もなかばなのに。部屋の中でもマスクをしていますよ。いまもしています。これは大変です。飲みものが飲みにくいったらない。マスクの、口のあたりを覆う部分をちょっとだけ上げてストローを差しこんで飲んでいます。あとちょっとした食べものが食べにくい。ぼくはいま落花生を食べながらこれを書いているのですが、ときどきマスク越しに食べようとしてしまいます。これは、なんというか、悲しい。まあ全体的に食欲が減退します。味がわからなくなっているからです。鼻がつまってると食べ物がおいしくないんですね。いちばん嫌なのはビールを飲むと症状が悪化するということです。鼻の奥が痛くて涙が出てきます。鼻水もすごい。ビールがそのまま鼻水になってるのかと思うほどです。というかこれは本当に花粉症なのだろうか?

ラテスタウト あ、そういえば「ラテスタウト」はおいしいね。すっかりはまってしまいました。ぼくも意外と黒ビールって好きなんですよ。吉川くん、「ラテスタウト」が好きだったら「ギネス」はどうですか? 飲んだことある? ぼくはアイリッシュ・パブで「ギネス」の生を飲んで感動しました。いままで飲んでいたビールはいったいなんだったのだと思うほどでしたよ。泡が違うんですね、まず。きめ細かいにもほどがあります。そして苦い。本物、という感じ。もし飲んだことないなら今度飲みに行きましょう。もし飲んだことがあっても今度飲みに行きましょう。

 なんていってたらビールが飲みたくなってしまいました。いまは午後四時半です。今日は仕事が休みだったのでした。というわけでちょっといまからビールを飲みますね。そうそう、昨日愚理子さんに買ってもらった有田焼のジョッキで飲んでみます。なんか泡が細かくなってビールがおいしくなるそうなんです。さすがにマスクを外しますよ。今日のビールは「ヱビス」「ヱビス〈黒〉」です。

 うおっ!これほんとにすごい。ふつうに注いだだけなのに、なんだか泡がふわっとしています。っというまに一杯飲み干しました。これはやばい。みんないますぐ買った方がいいですよ老若男女問わず。外に飲みに行かなくてもよくなりますよ、とお店の人はいっていましたが本当かもしれない……ってビールのことばっか書いてても仕方ないんで、ちょっとほかの話題に移しますね。

 ぼくはいままでいくつか変なあだ名で呼ばれてきました。小学生の時は「師匠」と呼ばれていました。そんな小学生いるんでしょうか。わかりません。最近では「メタファー」と呼ばれていたこともありましたね。なんなんでしょうか。あとはなんだ。忘れた。そして「ドラゴン」か。どうなんだろう。わかんないよね。あんまり考えたことがないですね。気に入ってるとか気に入らないとか。ただあだ名っていうのは、呼ばれてる本人は選べないわけです。そこがいいところだとぼくは思います。

愛のゆくえ じゃあ次。吉川くん、『愛のゆくえ』を読んだんだね。これは「ぼくが無人島に持って行きたい小説ベストテン」に間違いなく入ると思います。ブローティガンでいちばん好きなのは『西瓜糖の日々』ですが『愛のゆくえ』も捨てがたい。あとはドナルド・バーセルミの『雪白姫』と『死父』、それから高橋源一郎の『さようなら、ギャングたち』と『ぼくがしまうま語をしゃべった頃』(これは小説じゃあないけど)を持って行くでしょう。村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』も持って行くかな。あとなんだろ。リチャード・パワーズの『舞踏会へ向かう三人の農夫』かな。思いつくのはそれくらいかな。あ、チャンドラーの『長いお別れ』もかな。あと一冊か。なんだ?カポーティの『カメレオンのための音楽』かな。

 で、吉川くんは『愛のゆくえ』を読んで、レイモンド・カーヴァーを読みたくなった、と。実はカーヴァーはブローティガンの影響を受けているといわれているのです。ブローティガンの影響を受けている作家なんてほかにも山ほどいるのかもしれませんが、とにかく、だからそんなに不思議なことじゃないかもしれませんね。なにか共通のエッセンスがあるような気がします。それはそうとこんなものを見つけたよ。ブローティガンの仮想図書館だって。

帽子(もらえません) で、最後。弟。うちは全然似てません。弟の方がかっこいい。そして絶対にぼくにプレゼントなんてくれません。たぶん一生くれません。だから誕生日にプレゼントをくれる弟なんてすごくうらやましいですね。でも、もしもらっても、ちょっと照れくさいですよ、きっと。

 というわけで、意外と長くなってしまいました。とりあえず、往復書簡の往に対する復が書けたのでほっとしています。片方だけじゃ往復書簡じゃないもんね。それじゃあまたね。

ドラゴン