ドラゴン→吉川 第二信(復)

 吉川くん元気ですか?ぼくはあんまり元気じゃないです。今年はなんとなく断続的に調子が悪い。たぶん睡眠不足です。ぼくは昔は暇さえあれば一日16時間とか寝ていたのに、最近では3、4時間しか寝ていません。別に売れっ子でも、芸人でも、売れっ子芸人でもなんでもないのにね。今までの人生で、ぼくは明らかに眠りすぎてしまいました。これからは眠りすぎないようにしようと決心したのです。そんなに眠っている場合じゃありませんよね、まったく。

 三日に二日は6時20分に鳴らしている目覚ましよりも先に起きてしまいます。だいたい計ったように5時45分前後に目が覚めます。この前、朝の6時まで眠れず、6時15分までの15分しか寝ないで仕事をしたら、これはさすがにクラッときましたが、そのときは案外平気なもんです。そういうのが蓄積され、あとあと響いてくるわけです。そんなこんなでたぶん扁桃腺炎になったんですね。違うかもしれないけど。

 扁桃腺炎はきつかった。しんどかった。死ぬかと思った、ですね。まず唾が飲みこめない。扁桃腺およびその周辺が喉をふさぎそうな勢いで腫れているわけです。お前がそこをふさいでどうする、と言いたくもなります。というわけでほとんど食べれません。だってね、ゼリーとかヨーグルトを食べるのも痛いんですよ。これ、眠れないです。そして声が出ない。仕事を休むのに電話しなくちゃいけないでしょう。どうにか聞き取れるように一生懸命しゃべるんだけど「誰だ?」とかいわれる始末でした。そしてきつかったこと第一位は「耳が痛い」です。これは慣用句ではありませんよ。扁桃腺が腫れると耳が痛い。風船を膨らませすぎたときとかに耳が痛いようなかゆいような感じになるでしょ?そのひどいのがずっと続く感じ。もう気が狂いそう。「なんでだよ!なんなんだよ!!」と叫びたい感じ。声、出ないんですけどね。いちばんひどかった病院に行く前の日なんて一睡もできませんでした。で、診察開始の10時ちょっと前に着くように病院に行ってみたらば!これがまた!ぼくの前に!すでに!12人!扉を開けたら人がたくさん待合室に座ってて、座る場所さえないくらい。一瞬、ぼくが間違っていたのかと思いましたが、確かに診察開始は10時からなんです。みんな、なんだよ。なんなんだよ。そんなにオレを出し抜きたいのか耳鼻科で。耳鼻咽喉科で。結局、1時間20分くらい待たされました。病院に勤めている妹に聞いたら、「だいたいふつう耳鼻科にはそんなに症状の重い患者は来ない」のだそうで、「うちの病院(内科)だとそういう症状の重い患者さんは先に診察することになってるよ」ですって。なんでそれを先にいわんのだ、と言いたい。「内科にいけばよかったのに」と妹。「この時期、いちばん耳鼻科って混むんだよ」。なるほど。そういやそうだ。おおっと。こんなに病気の話をしてどうする。

つぼみ 春。春の話をします。春はどうですか。好きですか。桜。春といえば桜だなんてありふれていますが、春といえば桜です。桜といえばお花見。お花見といえばお酒。ところでお花見は日本人しかしないんだって。まあそうだろうな。桜を見て酒を飲む。なんでだ。なんで酒が出てくんだ。で、調べてみました。「サクラ」と「サケ」に共通の文字、「サ」に秘密があるみたいです。はっきりいって、ぼくは「サ」を見直しました。すごいぞ「サ」!

シーバス・リーガル さてさて、そんなわけで、毎度のごとく酒の話題をお届けしているこの往復書簡ですが、最近はウイスキーを飲んでいます。どうしたわけか、こないだ夢に「シーバス・リーガル」が出てきて、すごくおいしかったので買ってきたのです。「シーバス・リーガル」を飲むのなんて高校の時以来じゃないかな。でも、夢の中の「シーバス・リーガル」の方がおいしかったですね。梅酒みたいな味だったんだよな。って、じゃあ梅酒飲めばいいじゃんか。

有田焼 そうだ、こないだ有田焼のジョッキでビールを飲むとおいしいって書いたけど、今度はそれでコーラを飲んでみたんです。まあ吉川くんはあんまりコーラ飲まないと思うけど、これがまたおいしいんですね。小さいころ、おばあちゃんちで飲んだコーラの味になります。昔、おばあちゃんちにはいつ行ってもコーラがあって、それを飲むのが楽しみでした。1リットルの、ちょっと緑がかったような瓶入りのコカ・コーラ。ん?透明だったかな。わかんないや。

 ところで親の世代がペットボトルから直接飲み物を飲んだりしているのを見ると、ものすごい違和感がありませんか。そんなことないですか。若い世代に迎合するんじゃない、とぴしゃりと言いたくなりませんか。そういえば、こないだおばあちゃんちに行ったときにペットボトルから直接飲んでいたら、間違ったことをしているような気になってしまいました。ふだんはそんなことまったく思わないのですが、「コップに入れなくていいの?」とおばあちゃんに言われ、そういえばおばあちゃんちにペットボトルを持ち込んだのは初めてだなと思い、昔はいつでもコップに入れて飲み物を飲んでいたなと思い、ペットボトルから飲み物を直接飲むことでちょっとしたコミュニケーションが失われているのかもしれないなと思ったりしたのでした。

 ところで吉川くんは家に何らかのアルコール類をストックしていますか?こないだ思ったのですが、こんなにお酒が好きというかしょっちゅう飲んでいるのに、ぼくはぜんぜんストックとかしていないんですね。しようと思ったこともない。だいたいビールもその日に飲む分しか買わなかったりします。いろんな銘柄のお酒を棚に並べたりする人いるでしょう。今日はこれを飲みたい気分だなとか。そういうのちょっとやってみようかなと思います。

 そういえば、煙草を吸っていたときも、ぼくは一箱ずつしか買わなかったんですね。買っても二箱くらい。基本的にはその日吸う分しか部屋に置かなかった。そんなある日のこと、ぼくは風邪を引いていました。熱があり、寒気がするため、早い時間にベッドに入りました。ところが深夜にぱっちり目を覚ましてしまいます。そして、深夜に目覚めた大抵の喫煙者がそうするように、深夜に目覚めたぼくは煙草の箱に手を伸ばします。ところがです。それは無情にも空でした。季節は冬。部屋に煙草は一本もない。もし吸いたければ、買いに行くしかありません。

 この深夜に?
 この真冬の深夜に?
 熱があるっていうのに?
 風邪のとき煙草不味いのに?

 「やめちまえ」とぼくは思いました。正確にいえば、「ぼくの半分くらい」がそう思ったのです。そのとき、瞬間的にさまざまな条件が重なって、煙草に対する欲求よりも面倒臭さがほんのちょっとだけ勝ったのです。というか実に馬鹿らしく思えたのです。こう、なんというか、いろんなことが。「もう、いいや」と「ぼくの半分くらい」は思いました。そのようにしてぼくは煙草をやめたのです。どうやってっていわれたら、こう説明するしかないですね。

 不思議なことに、ぼくはもうかつて自分が煙草を吸っていたとは思えません。というか、どうしてあんなものを吸っていたのだろうとさえ思います。いや、これは半分くらいは嘘です。たぶん、煙草をやめた今の自分を正当化しようとする、心の防衛機能じゃないかと思います。でもその機能によってかよらぬか、もはや煙草の自動販売機が目に入りません。これは慣用句です。まるでこの世から煙草の自動販売機が消滅してしまったかのよう。無意識的に見ないようにしているものと思われます。禁煙してから15ヶ月ほどたちましたが、今でもまだぼくの半分は煙草を吸いたいと思っているのでしょうか。だとしたら、これは身体に相当なストレスをもたらしてるんじゃないでしょうか。それと煙草を吸うことによって生じる害のどちらが身体に悪いのか、と考えないでもありません、考えても仕方ないけど。これを社会的規模で考えると、最近の嫌煙キャンペーンによって抑圧された喫煙者が抱え込むストレスは、とんでもなく大きな弊害をどこか別の場所にもたらすのではないか、と考えないでもありません、考えても仕方ないけど。

来客用灰皿(きたない) というわけで、だから別にやめなくてもいいと思いますよ。煙草。でもちょっとでもやめる気があるのならやめればいいと思います。ぼくの場合はたぶん禁煙しようと思ったわけじゃないんですね。煙草を買いに行くのをやめたんです。で、そのままずっと買ってないだけの話です。だから、たぶん買ったら吸うんじゃないかな。吸わないのに買う人もいないですしね。まあ今のところ買う予定はありません。どっちかっていうと、煙草を吸うのをやめようと思うより、煙草を買うのをやめようと思う方がいいんじゃないかなとは思います。「吸う」前に「買う」があるからです。

 って、なんのアドバイスにもなってないか。まあいいか。あ、やめた直後は四六時中、飴をなめてましたね、とか、こういうのが聞きたい?飴代の方が煙草代より高いじゃん、と思ったりしました。じゃあ、もしやめるのならうまくやめれますように。それじゃあ今回はこのへんで。またね。

ドラゴン