吉川→ドラゴン 第五信(往)孤独を溜める
 

 やぁドラゴン元気でやっていますか?
ぼくはG7の稽古の真っ最中です。月火水木稽古稽古稽古。いつものように暗い地下室でコント爆弾を作っています。あとは、毎日寝る前にO脚体操をしています。なんかOLみたいでしょ。ちょっとでも背が伸びるかと思ってやってるんだけど、ぜんぜん治りません。足だけに、あしからず。

 さて前回のドラゴンの手紙読みました。いつものようにプリントアウトして。ドラゴンの文章は紙向きだね。はっきり言ってPCの画面で読むには、もったいない。紙で読んで、じわじわとドラゴンの意志が見えてくる。なのでみなさんにもプリントアウトをおすすめします。画面で読むより数倍おもしろいです。ぼくはパソコン的文章と本的文章(あるいは小説的文章)っていうものがあると思うんだ。ドラゴンは完全に後者。紙に印字されて、その魅力が伝わってくる。パソコンじゃ、ドラゴンの良さは4分の3しか伝わらないので、早く小説をお書きなさいよ。ぼくが半分出資するから(金ないくせに)。

 さて、暑くなってきました。一瞬記憶が飛ぶような暑さです。
 でもこの季節、外は暑いんだけど、店の中はどこも冷房で寒いね。特に飲食店。あの人工的な冷たさは長時間耐えられません。痩せているからかしら。ネタの練習とかで仕方なくファミレスやファーストフード店に入るけど、終わったらウサギみたいに脱走するもの。夏なのに寒い。なんかおかしいじゃない。
 いったいだれを基準に温度を設定しているんだとぼくも問いたい。東京にエスキモーでもいるのか。それともみんな白クマだっていうのか。「暑いけどさ、だからってそんな寒くなくてもいいよ!」と心の中でいつも叫んでいます。倍返しみたいなかんじだよね。あれがサービスだと思ってやっているのなら、そんなサービスくそ喰らえです。チョップしてやりたい。まぁあれは店に入ったとき用に涼しく設定しているんだろうけどね。でもそれにしても3度くらい寒いと思います。
がんばれ扇風機 ぼくもドラゴンと同じように冷房が嫌いなので、家ではなるべく付けないようにしています。冷房ってさ、温度の「維持」が苦手だよね。温度を下げるのは得意だけど、いい感じでキープするのがものすごく下手。どんどん寒くなってきやがる。だから室内ではほとんど扇風機です。あまりに我慢ならないときは仕方なく付けますが、設定温度は27度くらい。電車も基本的には弱冷房車に乗ります。がんばれ扇風機!吉川は、扇風機を応援しています。でも最近は扇風機が付いている車両も減ってきたなぁ。

 さて前回のドラゴンのプール見学話、おもしろく読ませてもらいました。「人前で裸になるのがいやだった」とは、意外な理由だった。てっきり泳げなくて嫌なのかと思ったよ。「人前で裸になるのがいやだから、毎回見学」とは頑固というかなんというか、相当嫌だったんだね。
 ぼくもプールはけっこう嫌だったけど(痩せてるから寒い。くちびるは5分でむらさき)、ぼくが通っていた学校は校風は自由なくせにプールに関してはやけにスパルタ的で、夏になると徹底的なるプール責めが敢行されたのでした。数学、国語、プール・プール・プールみたいな感じで、平気で800メートルとか泳がされるの。そして夏休み前には千葉・館山へ5泊6日の、地獄の遠泳合宿が待っています。中1で3キロ、中2で6キロ泳がされます。それもほぼ全員。中3では指導員として、中1、中2の遠泳をサポートをします。だから嫌いも何も、「泳がざるを得ない」状況だったので、もう無理矢理泳いだよ。3キロ、6キロ。でも中3の最後の合宿は、合宿前に車にはねられたのでずっと見学をしていました。ちょうど6月くらいに車にはねられて骨折したのだけれど、はねられた瞬間、ポーンと自転車から投げ出されているときに、「死ぬ」とか「思い出が走馬灯のように」とかではなく、「あ、これで館山見学だ」となんだかホッとしたような気分でした。

水中メガネ でもなんか懐かしいね、プール。「プール」という響きが懐かしい。カルキの匂い、足を水に入れたときの冷たさ、潜水、酸素が足りない感じ、水色の景色、水中メガネ、女子の水着姿、あたたかいシャワー、プールの後の授業のけだるさ。とても懐かしい。なんかバック転して飛び込んだりしてたなぁ。回転が中途半端で、飛び込み台に頭ぶつけたりしてた。
 でもドラゴンは、どちらかというと見学風景の方が目に焼きついているんだね。あの独特な、見学者からの視線。みんなばしゃばしゃ泳いでいて、先生も必死で、太陽がまぶしくて、日陰でみんなを眺めていると、なんだか世界から仲間はずれにされたみたいで、せつないような淋しいような気持ちでした。ぼくもときどきズル休みしていたからわかるよ。見学しているときはいつも、「自分はなんかまともじゃないんだ」という気持ちがこころのどこかにあったような気がします。

 しかしとにかく今年もプールの季節がやってきたわけだ。今度小学校のプールでも覗きに行こうかしら。でもじーっと壁の隙間からプール授業を見ていたら、「変態がいる!」とかいって通報されちゃうかもね。このご時世、小学校は珍奇男に狙われているからな。ぼくもメガネがきらりと光って怪しいかもしれない。

 あと給食と食文化の話もすごく勉強になりました。
 日本の学校給食が、アメリカの小麦処理に利用されていたとは。だからパンが多いんだね。そういえば、あげパンとかきなこパンとか、たしかにパンが多かったなぁ…

 というのはうそで、

 実はね、ぼくは給食を一度も食べたことがないの。幼稚園・小学校は弁当。中・高・大と学食。給食経験一度もなし。だからすごい憧れがあるんだよね。ソフト麺とかあげパンとか、脱脂粉乳とか(これは時代が違うか)。みんなから給食の話を聞くたびに、一度は食べてみたかったと思います。でもうちの母ちゃんなんか大変だったと思うよ。毎日弁当作らなきゃいけないんだもの。でも言っちゃ悪いけれど、うちの弁当はものすごく手抜きだった。煮物は総じて堅かったし、なんかの汁が白米に侵食してきていたし、いちごとハンバーグが密着していて、ハンバーグいちご味みたいになっちゃってたり。セパレートが下手だったんだろうね。弁当箱を開けたら、むかしの小さな戦争みたいになっちゃってたもの。とっ散らかっちゃってどうしようもなかった。ちゃんと食べたけどね。

 ドラゴンの「なにを食べるかというのは、ひとつの政治的決断だ」という一文には、とてもぐっときました。とてもぐっときた。
 口から何かを入れるんだもの。すごい行為だよね。ぼくなんかは無造作に毎日食べるものを適当に選んでいる気がしていたけど、たしかに「食べる」という行為はひとつの政治的決断といえる。どの店に入るか、テイクアウトするか、家で食べるか、肉を食べるか野菜を食べるか。選択し、一票入れているようなものです。これからはちゃんと食事を選んで、人がまったく思いつかないような発想が生まれる、そんな食事をするように心掛けたいと思います。草でも食おうか。ゲンゴロウにしようか。もっと飛んでDVDデッキでも食うか。むしゃむしゃむしゃ。バキバキバキー。

西新井大師 最近ちょっと時間があったので、西新井の方を散歩しに行きました。足立区とかあっちの方はあんまり行ったことがないから。やっぱり街によって空気が全然違うね。住んでいる人も違うし、建物も違う。おのずと空気が変わってくる。西新井は東武線特有のグレーな感じが、孤独感をふつふつとあおってくれてよかったですよ。10chの夕方のドラマに出てくるようなやるせない風景が広がっていました。近くに西新井大師もあって、「歴史の重み好き」のぼくにとってはなかなかおもしろい街でした。

 ドラゴンは散歩とかするかい?ぼくはよくひとりで散歩するんだけど、なんというか、「孤独を溜める」感じが好きなんです。孤独をしっかりと溜め込んで、風景を見て、歩く。するとやけに人に会いたくなる。誰かと話したくなる。そして人に接すると、また孤独を欲する。孤独を溜める。人に会いたくなる。誰かと話したくなる。その循環回路の中で、散歩は欠かせないわけです。
 淋しい夜なんかは多摩川まで車を飛ばして、ひとりで河原を歩いたりします。月がボンと出ている夜なんかは、自分の孤独さがいっそう際立ってなんともいい。「あぁおれはひとりなんだ」、「たしかにひとりなんだ」と、バケモノ青年まるだしで夜を歩きます。そして孤独感が頂点を迎えたころに、「あー、おれ、なにやってんだろ」とフリーフォールのような「冷め」があって、そそくさと帰ります。家に帰ってきたころには、「ま、明日もがんばろう」的な終点が待っていて、本を読んで寝ます。もっとさぁ!ダーツとかクラブとかDJとかしないとよぉ!老いぼれて死んじまうよ!とか思ったりもするんだけど、だめだね。散歩!読書!落語!趣味がおじいちゃんみたいだよ。
 だから今年の夏はぜひクラブ・デビューしたいと思っています。でもうるさいだけなんだろうなぁ。予想がつくんだよなぁ。音がでかいところが苦手なんだよなぁ。でも長嶋から「一回くらい来てみればいいじゃん」といわれているので、行こうと思っています。そうだ!ドラゴン一緒に行こうよ。クラブ。ドラゴンはクラブ行ったことあるの?どうですか?

氷でも食べるか それでは、また。
 暑いからカキ氷でも食べるかな。政治的決断として。

 おやすみストレンジャー。

ダーリンハニー 吉川正洋