ダーリンハニー吉川「鉄道は私のものではない」

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 ニューヨークの地下鉄は24時間走っているんだそうです。

 「眠らない町」という表現をよく聞きますが、実際に地下鉄が眠っていないとなると相当に眠らないのだなと思います。日本でも「眠らない町、歌舞伎町」というフレーズをよく聞きますが、地下鉄が眠っているので、眠らない度でいけばニューヨークに軍配が上がることでしょう。かなり気合の入った町と言えます。



眠らない町ニューヨーク


 日本の鉄道は夜中はおやすみです。

 寝台特急や一部の列車は夜中に走っていますが、日常的に使っている路線のほとんどは24時前後に終電をむかえ、5時前後に始発が走り出すパターンです。

 走っていない間は線路をメンテナンスをしたり、車両の点検をしたり、小さな工事をしたりして、昼間出来ないことに夜中を使います。もちろん我々は乗客として電車に乗ることはできません。ニューヨークの地下鉄の場合は24時間体制で人が動き、複々線なので片方を走らせて片方をメンテナンスなんてことも出来るんだそう。休みのない24時間運行だと人件費やシステムや安全性など掛かる労力は相当なはず。それでも何十年もずっと続いているわけですから、きっと大きなメリットがどこかにあるんでしょう。

 ただ、日本にいても1日だけ真夜中も電車が走っている日があります。

 それは大晦日です。



大晦日の終夜運転


 あの大晦日の高揚感。年が改まるフレッシュな感じ。夜中もみんなが騒いでいるお祭りムード。カウントダウン。なんともたまりません。

 私が思うに、あのワッショイな雰囲気に一役かっているのが、電車の終夜運転であるような気がします。1年に1回だけ行われる堂々たる終夜運転。あの「夜中も電車が走っている」というちょっといけない感じは一体なんでしょうか。

 私の大晦日といえば仕事柄、毎年何かしらのカウントダウンを舞台上で行い年を越します。今年はラジオのカウントダウン番組に出演しました。2時に代々木で放送が終わりましたが、山手線が終夜運転を行っているため余裕で帰れました。最高です。また山手線の終夜運転がなんと3時台でも10分間隔という涙モノ。



山手線の終夜運転


 あぁ真夜中に電車が走っているだなんて。
 こんなに多くの人が起きているだなんて。

 山手線で代々木から原宿へ向かうと、明治神宮で初詣を終えた人々を運ぶための臨時ホームを発見。お正月ならではの光景。夜中の3時にどっと人が乗り、どっと人が降りていく非日常的な姿は来年のこの時までお目にかかれない貴重なシーン。

 ふと、「これが毎日だったら」という思いが頭をかすめます。

 ニューヨークの地下鉄みたいに、東京も24時間電車が走っていたら。

 急いで終電に走らなくていいだなんて。
 2時ごろ飲み屋を出ても電車に乗れるだなんて。
 ぷらっと深夜にどこかへ出掛けられるだなんて。
 夜中の2時にホームで待ち合わせできるなんて。
 好きな電車を1日中拝めるだなんて。

 あぁ想像は膨らむばかり。



真夜中の代々木駅


新年ならではの原宿駅


朝3時の明治神宮前駅


 (イマジン風に)

 想像してごらん。

 毎日山手線が夜中でも30分間隔で動いている世界を。

 中央線が3時台に走っている世界を。

 田園都市線のあの終電の混雑がない世界を。

 僕のことを単なる夢想家だと思うかもしれない。

 あぁそうさ夢想家さ。

 でも想像してみるとなんだか楽しいよ。

 東横線が夜中の東京を抜けて多摩川を越えるんだ。

 真夜中の赤い京急なんてたまらないな。

 僕のことを単なる夜型人間だと思うかもしれない。

 あぁそうさバリバリの夜型人間さ。

 でも想像してみるとなんだか楽しいよ。

 もう急がなくてもいいんだ。

 時計を気にしなくてもいいのさ。

 いつだって電車は君の味方。

 想像してごらん。

 24時間電車が走っている世界を。



想像してごらん


歌う


24時間かぁ


 たっぷり想像してみました。

 公園で歌ってもみました。

 歌い終わって気持ちよくて鳥が飛んで、しかし現実問題、1日中電車が走っているというのはいかがなものかとも思いました。

 まず騒音。うるさい。そして経営。きっと儲からない。あと職員の方の苦労。一日中駅を開けていたら大変。

 そしてそんな目に見える弊害よりも、もっと大きな問題に気付きました。

 「全員の生活リズムがぐちゃぐちゃになる」。

 我々は案外、あの終電というボーダーラインを大切にしているのではないでしょうか。

 終電というボーダーがなくなったとたん、働きすぎの日本人はもっと働き出してしまうかもしれない。また終電間際に飲み屋でも見られる攻防もなくなってし まう。「どうする?」「終電なくなるよ」「いっちゃう?」「いっちゃうか!」という朝まで飲むぞー!感もあっさりなくなります。逆に帰りたいときに「終電 だから」という絶対的な理由がなくなります。帰れるのに帰れなくなります。

 終電という厳しいデッドラインがないと、恋も成就しないかもしれません。

 好きな女の子といい感じになって、飲みに行って、いざ終電となった場合にあのボーダーラインはかなりの重要度。終電を越えても一緒にいられるならばお互いかなり本気でしょう。同じように、合コンの運営も変わってくるでしょう。

 終電は重要な夜中のライン。 あのラインを超えるか超えないかで、夜中の世界に行くか行かないかが分かりやすく見える。

 そう考えると、我々の生活をクッキリ線引きしてくれる終電というものは、逆にすごくありがたいものな気がしてきました。



終電というありがたみ


毎日線引きをありがとう


 終電は私たちに静かに語りかけます。

 祭りはたまにやるから盛り上がるんだぞと。
 飲んでばかりいたら体に悪いぞと。

 そして、夜は寝るもんだぞと。



知らん顔で終電として働く銀座線


やはり日本の終夜運転は大晦日だけでいいです。

もしそれが嫌になったら渡米することにします。



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