ダーリンハニー吉川「鉄道は私のものではない」

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私はクロスシートが好きだ。

クロスシートとは線路の枕木と並行して配置された座席で、向かい合わせだとボックスシートとも呼ばれる。むかし相棒の長嶋くんに「クロスシート好きなんだよね」と散々語りを入れたら、「あの席は“くんずほぐれつ”みたいになるよね」と言っていた。くんずほぐれつって何よと思ったが、たしかに混んでいると足がぶつかったり、酔っ払いのおじさんと対面しなきゃいけなかったりややこしいこともある。

しかしクロスシートはなんともいい。
二度目になるが、私はクロスシートが好きだ。



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クロスシート



座席にはクロスシートともうひとつ「ロングシート」がある。棒のように長く、窓やドアと並行に設置されたシートだ。首都圏で走っている一般的な通勤型車両は、ほとんどがこのロングシートだ。

特急や長距離を行く路線にはあるものの、通勤型でクロスシートとなると、首都圏ではあまり見かけることができない。

残念なことにクロスシート車はそこまでたくさんの人を運べないのだ。通勤通学の足として使われる都心の路線は、主に多くの人を運ぶことが使命なので必然的にロングシートとなる。


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よく目にするロングシート



もっと混雑率が高い路線になると「6ドア車」が投入されており、中にはラッシュ時に椅子が折りたたまれて、椅子に座れない車両もある。こういう路線にクロスシートを投入してしまったら、まったく人を運びきれない。こればかりは仕方のないことだ。

そう考えると、クロスシートはある意味「余裕」の象徴ともいえる。


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余裕



そんなクロスシートが付いている車両に乗りまくりたいと思った。
首都圏の希少なクロスシートを存分に味わいたいと思った。
都心を離れればクロスシートは断然多くなるが、できれば東京・神奈川あたりでがんばっているクロスシートを乗り継いでいきたい。それもリレー方式で乗っていきたい。

ひとりでは淋しいので鉄道友達であるナベさんにその旨を伝えると、
「いいですね!」
と快く賛同してくれた。しかしリレー方式となると接続や車両知識や現在のクロスシート事情に精通していないとなかなか難しい。我々だけでもかなり大変だ。そこでナベさんは知り合いの作中さんを紹介してくれた。作中さんは現在、鉄道の車両製造メーカーにお勤めである。実際に車両を作っている方が来てくれるなんて、鬼に金棒だ。かつてこんなに心強い助っ人がいただろうか。バース、ブーマー、作中さんである。

ということで、華々しくクロスシートリレーは幕を開けた。


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クロスシートリレーのルールは

1、クロスシートがついている車両に乗る
2、リレーのように乗り継いでいく(同じ路線に戻ってはだめ)
3、座れないのは仕方がない
4、料金を足す特急やグリーン車は乗らない
5、渋谷をスタートし、渋谷に戻ってくる

の5か条。


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東横線の渋谷駅をスタート


ナベさん、作中さんにどうもどうもと挨拶していると、いきなりクロスシートが備え付けてある9000系を発見!

いきなり即乗り!


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9000系クロスシート



東横線で唯一クロスシートが付いている9000系。最近ではロングシートの5000系が主流になりつつある中、幸先よくクロスシートがある9000系に乗ることができた。

9000系のクロスシートはなんとも小ぶりでかわいらしい。9000系の座席はほとんどがロングシートだが、連結部付近にこじんまりとクロスシートが配置されている。ロングとクロスが混在しているいわゆる「セミクロスシート」の車両だ。

通勤ラッシュの激しい東横線にこんなクロスシートがあるだなんて、いわば奇跡だ。


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代官山を過ぎる



クロスシートのよさは、なんといっても「旅っぽくなる」ところである。

まず景色が見やすい。ロングシートで景色を見るには向かいの窓に目をやるか、横向きになるか、はたまた子供座りをして靴を脱いで見るしかない。しかし、クロスシートは窓側を確保できれば自然な向きで景色が見られる。あの旅情感はお金で買えない価値がある。

クロスシート、プライスレス。

そんなことを考えていると、あっという間に田園調布。

向かい側を見ると、

「あ!!!」

全員が叫ぶ。

都営の6300系初期車だ!



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都営6300系のクロスシートをゲット



なんというミラクル。

並走する目黒線に投入されている都営6300系が目の前にいただなんて。

それも6300系は初期製造車にしかクロスシートはない。
確率でいうと…計算できないくらいの相当なラッキー値。

ちょっと出来過ぎのスタートにみんなで興奮。
そのまま最近延伸された日吉まで行きました。



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ありがとう、6300系(手前です)


6300系に別れを告げ、東横線で日吉→横浜へ移動。


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横浜


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どれに乗りましょう


さて、ここからどうやってリレーしていこう。横浜から乗る路線によってこれからの展開が全然変わってくる。うーんどうしましょうかね、と会議していると作中さんが「相鉄はどうですか?」と提案してくれる

相鉄にもクロスシートはあるものの、終点の海老名へ行っても小田急にはクロスシートがないのでそこで終わってしまう。ロマンスカーに乗るのはだめだしなん て考えていると、「湘南台から横浜市営地下鉄という手がありますよ。横浜市営地下鉄には3000形の一部にクロスシートがありますよ。湘南台まで行って、 そこから戸塚へ抜けてJRというのは?」

すごい!さすが作中さん!
二俣川から湘南台に行けばいいんだ。
戸塚までの間に3クロスシートゲットだ!

ということで、横浜から相鉄に乗り、いざ湘南台へ!



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相鉄のクロスシート


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郊外を走る


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湘南台に到着



さて湘南台から横浜市営地下鉄に乗り戸塚に向かうわけですが、先ほどの作中さんの提案の中に「横浜市営地下鉄には3000形の一部にクロスシートがありますよ」というくだりがあったと思います。

そう。一部だけなのです。
いろいろ調べてみると、クロスシートつきの車両は全体の約25%。4分の1ほど。でもまぁ、4回に1回は来るわけですから少し待ってみましょう。


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これは違うの


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ずっと地下にいるの


結局5本をやり過ごし、45分が経過。

これがクロスシートリレーの醍醐味。

いつ来るかわからないクロスシートを地下で待ち続けます。

50分経過…。みなさんだいぶ疲れの色が。



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待ち疲れしてきたの


と!あの灯り!ついにきた!

やっときてくれました。クロスシートつき3000形のお出ましです。


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待ってたの


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うれしいの


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愛してるの


滑らかに走る横浜市営地下鉄3000形。なんだかよく乗っている気がする車両も、いざ待っていると来ないもの。出だしがすごくよかっただけに「いい感じで乗り継げるかも」と思っていましたが、そんなに甘いもんではありませんでした。

しばし感慨にふけっているとあっという間に戸塚に到着。

ここから東海道線に乗って、目指すは藤沢です。

東海道線は長距離路線ということもありクロスシートは編成のどこかしらに必ず入っているので安心。が、どこかでお祭りがあるのか、ものすごい混みっぷり。

クロスシートは残念ながら座れず。

こればかりは「座れないのは仕方ないルール適用」です。


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東海道線混んでます


藤沢着。だいぶ日も暮れてきました。

しかしクロスシートリレーはまだまだ続きます。

一回の読みきりのつもりできましたが、写真&文字数が膨大になってしまうため、二回に分けてお届けします。

次回、クロスシートリレー後編。

クロスシート、案外あるものです。




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