家に小田急9000形の模型がある。 少し前に『鉄道模型の誘惑』という企画をやったときに、模型店の店長さんから頂いた小田急9000形である。レールとコントローラーも頂いたので、久々にNゲージを部屋で走らせた。実車さながらにシャーシャーと走る姿はとても勇ましかったが、同時にレールだけだと淋しいなとも思った。 どこか淋しい 原因はひとつだ。 電車が部屋の中を走っちゃってるのである。 背景が部屋丸出しだ。 そんなとき前回の取材で銀座松屋の『鉄道模型ショウ』を見に行った。『これだ!』と思った。そこには大ジオラマが麗々しく飾られており、走る車両たちもどこか生き生きして見えた。すべての縮尺が小さくなり、その世界の中を当然のように車両が駆け抜けていく。洗濯物や生活道具はもちろんない。 嗚呼、ジオラマがほしい…。 大ジオラマ 夢物語である。 そんなスペースと大金、どこにあるというんだ。 いや、大金があればスペースもあるんだろうけど、現実は事実。ないものは仕方がない。 …といったことを新宿のルノアールで鉄道仲間のナベさんに相談したところ、「A4サイズのジオラマなら作れますよ」と教えてくれた。ナベさんはオールマイティに鉄道のことを知っているが、専門は鉄道模型である。 「A4で?小さくないですか?」 「1枚は小さいですけど、いくつか作ってつなげるんですよ」 「でもジオラマは高いでしょ?」 「1枚あたり3000円でいけますよ」 「え?本当に?」 「できますできます。じゃあ今度柿生のカシオペアに集まって、ジオラマを作りませんか?」 「いいですねー!ぜひやりましょう」 ということで私はウッキウキになり、さっそく柿生へと向かった。 柿生へ |
柿生の鉄道模型店『カシオペア』 集まったのはおなじみナベさん、作中さん(車両製造メーカー勤務)、高尾さん(現役駅員)、そして店長の宮城さん。A4ジオラマを作るには頼もしいメンバーだ。 ナベさんがA4の板やジオラマの材料になりそうなものをたくさん持ってきてくれている。さながら図工の先生のようだ。 A4の板と線路 すごいものを作ろうとしている作中さん みなさんイメージ膨らませ中 みなさん、それぞれのテーマを持ってA4ジオラマ作成に取り掛かった。 高尾さんは地元四国を走っている琴電のような懐かしい風景。作中さんは京急・逸見付近の断続的なトンネルを作るという。ナベさんにいたってはなんと三枚も作るらしい。それぞれ写真を見たり、資料を見たりしてイメージを膨らませている。 私はというと、まだまったくテーマが浮かばない。 おもしろいものを作りたいけれど、この場合のおもしろいって一体なんだろう。 はたしてトンネルはできるのか? ブロッコリーのような素材 何を作ろう 「まずは板を塗りましょう。スプレーでまんべんなく吹きかけます。吉川さんやってみてください」と板を渡してくれた。 そうだ。まず動こう。 板を塗ってから考えよう。 シュー カッカッカと喉の奥が焼けるような咳をしていると、店長さんが寄ってきて「私が塗ってあげますよ」と声をかけてくれた。「お願いします」と板を渡すと店長さんは見事なスプレーさばきで一瞬にして板を塗った。 ものすごいマスク 「普段はさっとやっちゃうこともありますけど、やっぱりマスクしないと肺にきますよね」と店長さん。ジオラマ作りはかなりの神経と体力を要するようだ。 板塗り完了。 みなさん、それぞれ作業に取り掛かかる。 岩のようなものをさっと作るナベさん ホームを接着する高尾さん 塗料の匂いを楽しむ作中さん 高尾さんは今回がはじめてだというが、とても繊細なジオラマ作りをしている。無謀に思われた京急の断続トンネルを作っている作中さんも順調に山を切り出している。ナベさんにいたってはもうすでに一枚が完成しそうだ。 慣れた手つきであっという間に岸壁の波を再現してしまった。 ファイバー入りの画材で波はできるのだという。 恐るべし、ナベさん先生。 トンネルができて来た 波を作り出すナベさん …私もそろそろ作り出さないとあっという間に夜になってしまう。 しかしみなさんの出来栄えを見ていると、普通のを作っても目立てないだろう。情けない芸人根性である。まぁ目立つまでいかなくとも、『はっ』とするようなものを作りたい。ベーシックなのものもあるし凝ったものもある。できたらみなさんのをつなげた時に、『吉川のところはいったい何だ』というフックになるようなジオラマを作りたい。 そのとき、とあるものが目に入った。 作中さんがつかわなそうな発泡スチロール 「これ使わないですか?」 と作中さんに聞くと 「えぇ。トンネルのいらないところです」とのこと。これは使えそうだ。 一気に構想が出来た。 テーマは『未来の駅前』だ。 あの発泡スチロールを、吉川未来タワーにしよう。 発泡スチロールを店長さんに塗ってもらい 未来タワー完成 A4の板に線路を引き、未来タワーを乗せる。なかなかいい出来栄えだ。ウルトラマン的な色味が気に入った。 でも何か足りない。 まだ現代にありそうな風景だ。駅前のタワーと言われればそれまでである。 最近では駅前もずいぶんと未来化してきた。 …何かないかなぁと頭をかきむしっていると店長さんが 「UFOありますよ」と一言。 UFO! 「でもこれ6300円しますよ」と私が言うと「いいですよ、3000円で!」と何と値引きをしてくれた。なんとありがたいことだろう。 タワーの上からUFOが飛ぶ。 これこそ未来の駅前だ。足りなかったのはUFOだったのだ! と浮かれたのもつかの間、UFOは外国製の模型なので説明書が英語だった。 まったく何が書いてあるのかわからない。 英語の説明書 どうやって作るんだ UFOの説明書が国家機密に見えてくる。FBIの極秘情報を握ってしまったような気持ちになる。柿生まで追っ手はやってくるだろうか。 しばしにらめっこしていると店長さんが 「模型はフィーリングですよ」 と声をかけてくれた。そうだ。えい、もう作ってしまえ。 足などをつけて なんとなく作っていたら、UFOらしくなってきた。 組み立てているうちに小学校時代プラモデル部に入っていたことを思い出した。ここにきて小学校の部活が役に立つとは思いもしなかった。部活、三十歳にして効果を発す。 こうなると乗ってくる。 UFOの上に人を乗せよう。 カバーを開けると 通勤する人だ 未来では駅前まで電車で行き、そこからは宇宙へ通勤するのである。「今日お父さんは水星へ出張だ」「いってらっしゃい」という会話が当たり前になる。電車→UFOの流れが当然となる。 未来タワーにUFOを乗せ、周りを木で囲み『未来の駅前』は完成した。 ちなみに3000円で買ったUFO以外はすべてもらいものか廃材である。 完成! しばらくして、みなさんの作品も完成した。 3時間、3000円以内。見事なA4ジオラマの作品だ。 店長さんも知らない間に作っていた。ナベさんのお友達も仕事終わりで合流。昨日作ったという作品を見せてくれた。みなさん、素晴らしい出来である。 高尾さんの作品(田舎の風景) 作中さんの作品(京急のトンネル) 店長さん、ナベさんのお友達の作品(コンテナ倉庫、関西の風景) ナベさんの作品(青海川、武蔵境、電チラを再現) 私以外、お見事としか言いようがない。 しばらくみなさんの作品を見て鑑賞しあう。「ほぉ」「すごい」「いいなぁ」。 しかしA4ジオラマはこれで終わらない。それぞれの作品をつなげてひとつの作品が完成する。そしてそこに車両を走らせるのだ。 さっそくつなげて走らせてみよう。 つなげて 走らせる 私も含め、みなさん子供になったみたいだった。 ジオラマを作っている時からみなさん子供みたいだった。鉄道模型はこれでなくちゃと思う。一瞬、小さくなる。模型も小さいが、我々も小さい。子供みたい に。そしてまた大きくなる。我に返る。作っている時はそんなことの繰り返しだった。結局大きく戻るものの、たまに小さいというのもいいものだ。 外を見ると真っ暗だった。 店長さんにお礼を言い、お会計を払う。 UFO代として |
A4ジオラマ、みなさんにもおすすめです。 鉄道は私のものではないですが、鉄道模型は私のものにできます。 手に入れられる幸せ。これはうれしい。 私が作った未来タワーはインテリアとして部屋に飾ってあります。 柿生のカシオペアに行けば、店長さんかナベさん先生が作り方をきっと教えてくれますよ。 インテリアとして |
ホビーショップ・カシオペア |
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