ダーリンハニー吉川「鉄道は私のものではない」

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寝台特急のときめきをどう表現したらいいだろう。

子供の頃、今では廃止になってしまった『銀河』に乗ったことがある。目的地は京都だった。車両に入ると鉄が経年したような匂いと、人がたくさん寝てきたベッドの匂いがした。年季の入ったいい匂いだった。私は2段ベッドの上段に寝そべり、結 局京都までほとんど眠れず朝を迎えた。寝台列車に乗る興奮と夜の移動の恐ろしさみたいなものがない交ぜになって全然眠れなかった。京都に着いたとき、空あくびをしながらも無性にお腹が空いていたのを覚えている。

『北斗星』にも乗った。中学生くらいだったと思う。『北斗星』は上野―札幌を16時間かけて走る寝台列車だ。この時はわりとすぐに眠りについたが、朝の4時に起きてしまった。ちょうど青函トンネルに潜り込むところで、それ以降は再び車窓。札幌の朝を、また空あくびで迎えた。

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久々に寝台に乗りたい

しかしまとまった時間がとれない貧乏暇なし芸人にとって、寝台特急の旅は夢のまた夢。

時刻表をめくる。

東京発のブルートレインは、『富士・はやぶさ』を最後に今年の3月で廃止になってしまった。寝台特急のページが淋しい。しかしこれも時代の流れで…あ

あ。あ!

サンライズ・エクスプレスに乗りたい!

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サンライズ瀬戸&出雲

ブルートレインは東京から消えてしまったが、ブルーではない寝台特急ならまだある。サンライズ出雲&サンライズ瀬戸=サンライズ・エクスプレスだ。東京を出てひたすら東海道線を走り、途中の岡山で切り離しされた後、それぞれ出雲市、高松へと向かう寝台特急である。

でも出雲や高松まで行く時間もないし、サンライズ・エクスプレスは全室個室。その分お値段も張る。うーんどうしよう。うーんJTB~。JTBは関係ないが、くねくね捻りながら時刻表を拝むように挟み込んでいると

!!!(ひらめいた)

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ノビノビ座席だ!

ノビノビ座席は寝台料金ではなく特急料金で乗れる。
寝台に比べ格安である。個室寝台で移動できない人のための配慮だろう。粋な計らいがうれしい。終点まで行ってしまうと次の日の仕事に間に合わないので、ノビノビ座席で東京の次の停車駅、横浜まで行こう!たった23分の旅だけど、寝台特急の風情は味わえるに違いない。貧乏暇なしをダブルクリアだ。

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さっそくみどりの窓口へ

「サンライズ出雲の東京―横浜間のノビノビ座席は空いていますか?」
「横浜までですか?」
「横浜まででいいんです」
「えーっとちょっと埋まってますねぇ。でもサンライズ瀬戸の方なら若干ございます」
「あ、瀬戸でもいいです!2枚ください!」

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特急券をゲット!23分の旅

横浜までなら出雲も瀬戸も変わらない。
岡山まで連結して走るのだから。

チケットは手に入った。特急券+乗車券で1460円。こんなに安く寝台特急に乗れるなんて。一人では淋しいので私は鉄道仲間のナベさんを誘った。ナベさんは喜んでこの計画にご乗車してくれた。

出発は4日後。
初サンライズ(横浜まで)、ドキドキ。
予行練習でノビノビ。


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当日ナベさんと待ち合わせの確認をしていると

「そういえば品川でサンライズはよくお昼寝してましたね」
「えぇ。東海道線の下りホームからよく見えますよ」
「品川で見てから東京行っちゃいましょうか!」
「では品川集合で!」

ということになった。

品川で休んでいるサンライズを拝んでから東京に戻る。そして横浜へ行く。「なにをしてるんだ」は決して言ってはいけない。

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…いませんでした

サンライズはいなかった。

もう出発の準備に入ってしまったのだろうか。
まだ1時間以上あるというのに。

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東海道線で東京へ

品川でサンライズは拝めなかったが、東京入線からばっちり押さえよう。我々の気合のメーターは次第に上がっていく。

いや、その前に駅弁だ。

以前「東京―品川間の新幹線に乗る」という企画をやったが、たった8分の移動でも駅弁があるだけで移動がずいぶんと華やかになった。

今回は23分。時間は短いが駅弁を食べる時間はあるだろう。

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遅くまでごくろうさまです

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駅弁ゲット

待ちきれない。

発車まではまだ30分以上あったが、もうホームへ行ってしまおう。

待つ時間が多いだけ、じれる。じらされる。その分メーターもグングン上がる。

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待ちます

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こちらの方が早いですが乗りません!

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まだ来ません

発車は22:00。

21:45になってもサンライズは来ない。

電光掲示板を見る。「寝台特急 22:00 サンライズ瀬戸 高松」。これを見ると自分が高松に行く気がしてくる。長い旅になるだろう。寝心地はどうだろう。やっぱり眠れないだろうな。

ぼーっと倒錯していると、サンライズは唐突に入線してきた。

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おまっとさんでした

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カッコいい

ちびっ子がパシャパシャとサンライズ瀬戸を写真に収めている。大人だって感慨深げに車体を見ている。やはり寝台特急は特別だ。長旅を重ねてきたオーラが神々しい。

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サンライズに乗るぞ!(横浜まで)

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神々しい

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ノビノビ座席は5号車です

23分の寝台特急。

個室ではないけれど、ノビノビと横浜に行けるなんて不思議な気分だ。

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ノビノビ座席は2階建て

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ノビノビ

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個室もいいなぁ

サンライズ・エクスプレスは内装を住宅メーカーが作っているだけあって普通の列車とは趣きが全然違う。フレッシュできれいだし、なんだか落ち着く。

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さっそく寝ている方

22:00。

サンライズ瀬戸はゆっくりと動き出した。

異空間の23分がはじまった。

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左手に新幹線

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過ぎゆくマンション

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柿の葉寿司を急いで食べる

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寝てみる

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横浜です

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え!!

もう!?

23分ってこんなに短かったっけ。
降りなきゃ、降りなきゃ。

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横浜たそがれ

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サンライズありがとー


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弁当の空き箱が哀しかった。いっそ高松まで乗ってしまおうかと思ったが、明日は仕事。仕方がない。サンライズ・エクスプレスを見送り、横浜で投げっぱなしの気持ちでたそがれていると、やがて哀しさは「明日もがんばろう」に変わった。いつか個室で移動しよう。その時はゆったりと、優雅に、寝台特急を髄まで味わおうじゃないか。

2回目の短距離豪華移動。

答えはいつも「遠くへ行きたくなる」。

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靴ちゃんと履いてなかった


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