王子
東京フィールドワークin調布
今回の東京フィールドワークは「調布」です。これはトークライブでも「実写版・東京フィールドワーク」という形で解説付きで披露したのですが、ライブに来れなかった人もいるでしょうし、webにも記録として残しておこうということで、改めて調布編、いきましょう。実際は「調布」を越えて、府中、多摩地区まで及んでいるのですが、そこはいつものようにご愛嬌。

さーて、調布です。「ちょうふ」というアンニュイな響き。なんか「とうふ一丁」みたい。あるいは「超・麩」(ちょうふ)でもいいです。すごい・おふ。とにかく言語野をくすぐる響きですね。腑抜けた感じが好きです。もちろん行くのは初めて。ちょうふ、どんな街だったのでしょう。相変わらずの「勝手にしやがれ、ビジター目線」でお送りします。今回の写真家はおなじみお笑いフォトグラファー、オートバイ。太っているわりにフットワークの軽い男。頭脳明晰、オザケン大好き、バイクに乗れないのにオートバイ。彼はなんでも最近調布付近に引っ越してきたばかりとのコト。「調布なら車の方がいいよ」と車を出してくれました。大抵この東京フィールドワークはオートバイが下調べをしてくれて、そこにぼくが飛び込むという形でやっています。素晴らしきTFW仲間です。見事な写真を取ってくれます。

それではいってみよう。
今回はちょうふー、ちょうふーです。

まずは調布駅前に行ってみます。調布は京王線オンリーの駅。ポジション的には郊外の第2都市。田園都市線なら溝の口、東横線なら武蔵小杉、小田急線なら登戸といったところでしょう。都心から急行で約20分。「結構大きいし、急行も止まるし、便利だけど、ちょっと田舎くさい」イメージ。調布駅前は思ったよりこじんまりとしていて、そのネームバリューからするとちょっと肩透かしを食らった感じです。パルコが一応あるのですが、「一応置いておくね」といった風情であまり街に解けこんでいません。ゲームのシムシティみたいに、ぽんと上から置いた感じ。とりあえずでっかい建物がこれだけだからですかね。なんともおざなりです。

駅前にロータリー、パルコ、大通り。これといって心躍るような駅前ではありませんでした。

調布駅前

おざなりパルコ

特に何もないのでポーズでごまかす


さて、調布といえば何と言っても深大寺です。「じんだいじ」と読みます。車でおよそ10分の距離。「深大寺そば」が有名で、参道があり、水戸黄門に出てきそうな古い街並みがあります。到着するとさっそく参道を発見。がしかし、人が誰もいません。見事なくらいの「時間外」。閉店した店たちが平然と悪気もなく並んでいます。着いたのは15時くらいだったのですが、それにしても閉まるのが早いんでないかい。それとも来るのが遅すぎんのかい?もしや深大寺周辺は曜日によって美容院みたいにいっせいに休むのかい?でもなんとなくこの土地が「ご老人時間」で成り立っているということはわかりました。行ったのがまだ寒い季節だったのもあるかもしれませんが、ぼくらみたいな深夜族にはちょいと不便なところです。社会から隔離されてしまった孤独感とちょっぴりの優越感を感じます。

深大寺は作りがとてもいい感じ。色味がグー。改築したんですかね。歴史のわりにはなんだかピカピカしていましたよ。

参道

やってない

みんな休み

深大寺入り口

ピカピカ深大寺

まぎれる


「来週までに7曲覚えなきゃいけないわねー」
「あーしんど」
「嫌になっちゃうねー」
「本当」
「あー、いやだいやだ」

おばあさんにまぎれたときに隣りから聞こえてきた会話がこれでした。深大寺で習い事。相当きついみたい。7曲覚える…。HIP HOP?

さて深大寺に来たからにはやはりそばを食べなきゃいけません。「いけません」ということはないですが、深大寺周辺には無数のそば屋があり、「ここに来たからにはぜってぇそばだかんな」という無言のプレッシャーがあります。ぼくはそばがこの世で一番好きなのでまだいいですが、そばアレルギーの方にこのプレッシャーは厳しいです。「そば」「そば」「そば」「そば」「そば」「そば」「そば」「そば」。そばののぼりだらけ。「死ね」「死ね」「死ね」って言われているようなものですものね。そんなことはつゆ知らず(そばだけに)、ぼくはよだれを拭こうともせずまっしぐらにまだ開いているそば屋に入ったのでした。

さっそく大好物「とろろせいろ」を注文。とろろせいろが来るまで、オートバイのうんちくに耳を傾けます。「深大寺そばが有名になったのはね、元禄年間、天台宗関東総本山東叡山寛永寺御門主第五世公弁法親王に蕎麦切りを献上して賞賛を得てからと言われてるんだよね。深大寺の裏山一帯は関東ローム層の黒ぼく土で、そばの栽培に適していたんだ。また近くに野川が流れていて湧き水の多いこの地は、そばをさらす良質な水が豊富だった。深大寺境内には「そば守観音」があって、毎年10月中旬には「そばまつり」が行われる。大晦日は年越しそばをもとめる初詣の客で夜通しにぎわう…」
「おまちどうさまー」「おーきたきた」「東叡山寛永寺」「…食べよう」

最初はつゆをつけずそばだけを食べるオートバイ。さすがこだわり屋。
香りがいい。コシがある。小田急線の箱根そばもうまいけど、深大寺そばも当然のことながら、うまい。あー、うまい。

うんちくを聞く

かえるも聞く

深大寺そば

とって

つけて

うまい


時間外の深大寺をあとにします。次はお昼時に来たいもんだ。
ふたりで地図を眺めていると、深大寺の近くに「調布飛行場」を発見。そばの次に飛行機。まったく脈略がなくていいじゃん。と、車を走らせます。
深大寺からおよそ8分。チラホラと小型機やセスナが見えてきます。飛行場に間違いありません。中には入れず外から見ただけですが、まー殺風景。だだっぴろい。奥にはサッカー場「味の素スタジアム」が見えます。なんでもこの飛行場からは大島に飛べるらしく、30分であっという間に行けるみたいです。いいですねぇ。このリアリズム。「調布→大島」。何ともいえぬ範囲の狭さ。「成田→ハワイ」にはないドメスティックでヒューマンタッチなスケール感です。ぷらーっと調布に行ってぷらーっと大島へ飛ぶ。休みの日にやってみようかな。
飛行場近くに小さな公園があり、5歳くらいの女の子5人くらいがわーわー遊んでいます。殺風景に華。飛行場、セスナ、女児。なんとシュールレアリズムな光景でしょう。27歳のぼくも当然負けずに公園で「きーん!」などといって遊びました。断然負けちゃいられないのです。

調布飛行場

飛行機

遊ぶ


さて飛行場の次に待ち構えるは、近藤勇。なんだか混沌としてきました。そば、飛行機、近藤勇。いいですよぉ、このごちゃ混ぜ感が。
新撰組局長、近藤勇は調布の生まれ。ぼくは新撰組にはそこまで興味がありませんが、やはり調布に来たからには局長を訪ねないわけにはいきません。調布飛行場からおよそ5分。近藤勇が眠る龍源寺に到着です。太宰治を墓参りしたときほどの興奮はありませんが、やはり熱い男のたぎる魂を拝みたい。拝んでおきたい。あやかりたい。
龍源寺の竹林を越えてすぐのところに近藤勇の墓はありました。みんなに擦られたのでしょうか。その墓は結構色褪せていて以外とこじんまりとしています。人気者だけに、真新しい花がたくさん添えられています。ぼくらは「あんた、勇ましかったよ」と言い残し、墓参りを終え、次に「近藤勇 産湯の井戸」に向かいます。ここはなんと近藤勇の生家。残念ながら家は残っていませんが、井戸だけが残っていてかわいくぽつりと佇んでいます。そして向かいには、近藤勇が剣の腕を磨いた天然理心流道場、「撥雲館」の跡地があります。ここは別名「近藤道場」と呼ばれ、ビシバシと剣術を叩き込まれていたようです。いまは個人宅なので中には入れません。「近藤」という表札だけが歴史の橋渡しをしています。

調布の誇り、勇

近藤勇

吉川勇

近藤勇の墓

産湯の井戸

歴史を物語る


「撥雲館」から歩いて2分。都立野川公園という大きな公園を発見。川が流れ、武蔵野の面影残る見事な公園。ファミリーで来るには最高の公園でしょう。まるでゴルフ場を開放したかのような広い広い公園です。近藤勇は自然に囲まれて育ったんだなと実感できます。

さて、いよいよTFWも佳境。TFWは日没コールド制を採用していて、日が落ちたら終了です。今回は3月のはじめに行ったので、17時には日が暮れてしまいます。次どこいくー?なんてことを車で相談していたら、どうやら近くに「多磨霊園」がある模様。多磨霊園には多くの著名人が眠っているらしく、最後に墓を参りまくるというのもいいじゃない、ということになり、早速向かってみました。
行ってみたらこれがびっくり!でかい。でかすぎる。霊園の域を超えている。なんと園内に市境があり、上は小金井市、下は府中市に分かれています。どんだけでかいんだよ、とため息。そしてもう一つ驚いたのが、車で園内を回れるということ。要は広すぎるので歩くと大変だから、車で行って横付けして墓参りしちゃえよということです。横付け墓参り。うーん、ラジカル。なんだか富士サファリパークみたいです。

都立野川公園

多磨霊園

「広いんです」


歴史が眠る多磨霊園。眠っている人々をご紹介。

有島武郎(小説家)、江戸川乱歩(小説家)、岡本太郎(芸術家)、菊池寛(作家)、北原白秋(歌人)、高橋是清(首相)、長谷川町子(漫画家)、堀辰雄(小説家)、三島由紀夫(小説家)、吉川英治(小説家)、山本五十六(海軍大将)、ゾルゲ(スパイ)、井深大(ソニー創始者)、岡本かの子(歌人)、田山花袋(小説家)、新渡戸稲造(教育者)、向田邦子(作家)…。

そうそうたるメンバーです。たぶん他にもたくさんいます。ということでここは華々しく墓参りしかないだろうと二人して息巻き、「多磨霊園横付け墓参りの儀」を決行したのでした。

山本五十六、高橋是清、長谷川町子をお参り。何せ広いもんだから探すのが大変。日も暮れてきた。感情も単に怖いだけになってきました。最後に三島由紀夫だけでも!と20分くらい探すも、残念ながら見つからず。(後日、三島由紀夫はペンネームのため、いくら探してもないことが判明)。

暗い。怖い。広い。

その茫洋とした霊の暗闇にただただ立ち尽くし、最後は膝を抱えてうずくまり、「…帰ろう」と頷き逃げるように多磨霊園をあとにしました。だめだ、もう怖い怖い。

山本五十六

高橋是清

長谷川町子

墓地にエロ本

三島を探す

怖くなり終了


ということで、そば、飛行機、勇、公園、墓地と盛りだくさんの調布でした。
行くならね、絶対に昼前に行ったほうがいいです。
夜はなんか怖いから。

TOKYO FIELD WORK 2
TOKYO FIELD WORK 2