北千住
東京フィールドワークIN北千住
 以前、ストレンジ日和で「ぼくはまだ青年だった」と書きました。現在二十八歳。おじさんでもない。少年でもない。バリバリの青年です。無理やり老けようと苦心していましたが、やめました。当たり前だけど、若いのです。とにかく健康だし、いろいろなところへ出掛けてみたい。歩きたい。永井荷風だって七十歳を過ぎてもばりばり歩いていたんだから、ぼくなんてどこまでも歩くんです。最近では新橋で終電がなくなり、目黒まで歩きました。闇の中、山手線に沿いながら三時ごろまで歩きました。半分やむを得ずというところもありましたが(タクシーで何千円なんてばかばかしい)、深夜散歩はなんとも静かでいいものです。

 もちろんぼくには青年一般が抱えるいわゆる欲望みたいなものは大いにあって、それらはらせん状に、はたまたマーブル状に、千鳥模様に渦巻く時だってありますが、そんなものらと格闘しながら(どっちが勝つのかはわからないけれど)、歩きます。

 歩く。本を読む。歩く。歩く。電車に乗る。歩く。歩く。一瞬疲れる。休む。食う。寝る。たわむれる。漢字で書くと戯れる。こんなんじゃだめだと振り切り、歩く。歩く。お兄さん寄っていかない?なんて店をちらり見やりながらも、歩く、歩く。どこまでも。そんなことの繰り返しを経て、いろいろあってたぶんいつか死ぬ。

 しかし私まだ人生の午前中。90まで生きるとして、まだ3分の1もきちゃいない。ならば何かを感じながら、はたまたまったくの無感で、いろいろなものと格闘しながらどっちにしろとにかく歩こう。いい気分になるかもしれない。お金だって落ちているかもしれない。先輩に会っておごってもらえるかもしれない。誰かとの偶然の再会に涙するかもしれない。宇宙人にさらわれるかもしれない。宇宙を堪能して帰ってきたら二万年くらい時が経っちゃってあまりの東京の変貌ぶりに再び涙するかもしれない。そのころにはもしかしたら人間だっていないかもしれない…。

 ということで、今回の東京フィールドワークは北千住でございます(全くフリと関係ありません)。

 いままで東京フィールドワークで行ったところを見返してみると随分かたよりがあって、足立区はぽっかりと行ったことがありませんでした。足立区の玄関、北千住。JR東日本エリア、乗降客数第11位。1位新宿、2位池袋、3位渋谷、4位横浜、5位東京といろいろあって、10位上野、そして11位が北千住。隠れたビッグシティですね。しかし実のところぼくのなかでの北千住はあまり華麗なイメージではありませんでした。というのも足立区出身、事務所の後輩であるマシンガンズ滝沢(タッキー)から泥臭い北千住伝説をたくさん聞いていて、行ってみたいようなみたくないような状態だったのです。しかし臆測していても始まらない。百聞は一見にしかず。北千住、ちょっと怖いけど、あのゾーンはいつか行かなくてはいけない。しっかりと正面から対峙しなくちゃいけない(ちょっとおおげさ)。ということで休みを使って行って来ました知らない街に。今回もバモスさんがご同行。どうもありがとう。

 どーんと行きますよ、北千住。
 はたしてどんな街なんでしょーか。 

 まず千代田線(綾瀬行き)に乗り、北千住駅で降ります。月曜日の昼間。人はそれほど多くありません。さて改札を出て…と改札を探すも全然見つからず。長―い通路が延々と続いています。「あれ?もう出たっけ?」とパスネットを見ても退出記録はなし。異様に広い駅構内。軽い迷路のようです。まだ改札を出ていないのですが、あまりに広いので出てしまった錯覚があります。これはおそらく北千住駅は接続線が多いので、駅自体がとても広いのでしょう。通路が長い。早く外に出たい。

 ようやく改札を見つけ、階段を駆け上り駅の外に出ます。こんにちは北千住。空は見事なくらい曇っている。でもそれは北千住のせいじゃない。ぼくが曇り男のせいだ。そして、街は鳥が多いがきれいだ。


広い構内

退出記録を確認

駆け上がる

千代田線出口

見渡す限り、曇りの北千住

鳩が止まっている


 駅前はちょっとした空中庭園のようになっていて(水戸に似ている)、丸井とルミネの二大巨頭が肩を並べて立っています。見渡す限りの曇り空。鳩が恐れもなしにうろつきまわっています。しかし特にダークな感じもなく、いたって「ザ・ターミナル」な風情。大型ビジョンに映し出されるミニマムな足立区情報。空中庭園の下にはバスやタクシーのロータリーがあり、頻繁に行き来をしています。

 ぼくは空中庭園を下り、商店街を歩きました。駅からまっすぐ伸びる、「きたろーど1010商店街」。とぉとぉ?じゅうじゅう?と眉にしわを作り頭をめぐらせているうちに、マネージャー林さん(足立区出身)との会話の中で、「今度の単独ライブはシアター1010でやりましょうよ」、「どこですかそれ」、「北千住の丸井の上にあって、1010と書くんですよ。綺麗でいいホールです」というのを思い出し、あ、そういえば1010はせんじゅと読むんだと合点しました。1010。北1010。読め…ない…ことも、ない。無理…矢理、だが。

 年齢層は高めか低めの両極端。ご老人やおじさん。学校帰りの小学生。あとは不思議な洋服を着た人が多いです。虹のようなシャツを着たおばさんが自転車を猛スピードで走らせていきました。しかしこれはどうみても時間帯。どの街だってそうです。月曜日の昼の二時にぼくと同世代の人々がわんさかいても困ります。

 「きたろーど1010商店街」。活気とはまた別の、少し妖艶な手慣れた生活の空気が漂っています。イトーヨーカドー発見。ここはなんとイトーヨーカドーの第一号店なんだそうだ。ぜひ行った方は見てみてください。でも中は普通のあのヨーカドーです。漫画のようにお腹が鳴る。おにぎりを買いました。


商店街を歩く

家賃はけっこう高い

ヨーカドー1号店

日光街道に出る

おにぎり購入

宿場町通りへ


 「きたろーど1010商店街」を右に曲がって、「宿場町通り」というどうみても渋い商店街を歩きます。駅前の商業的な雰囲気とは一転、ソウルを感じる人情味あふれた商店街です。一本道を外れてみると、絵に書いたような下町の光景が目に飛び込んできます。細い路地にはこどもがチョークで書いた絵がびっしり。チョークの落書きは道路だけでは済まず、玄関にまで及んでいます。行政的ではない、寛容な世界がここにはあります。ゆるい。勝手。成り行き。そのことに街が全然怒ってない感じです。

 歩いていると公園を発見。バッキャ言いながら跳ねるように遊んでいるこどもたち。北千住のこどもは爆発寸前の風船のように元気です。「手に入れろ!ドラゴンボール!」と叫びながら猛然とブランコをこいでいる少年。ウキキキキー!と小猿の叫び声をあげながら坂を駆け上る少女。そうこなくっちゃ!とぼくも一緒に坂を駆け上がり、まぎれて遊びましたが「なんか、不審な感じ」「なにあのやせぎす、変に怖い」という目で見られてしまいました。無邪気な中にも審美眼を兼ね備えているこどもたち。そこも、いいぞ。現代では、必要な力だ少年少女。ぼくはすぐに遊び疲れおにぎりを食べました。


路地には無数の落書き

玄関にまで

うまい

まぎれる

滑り降りる

おにぎりを食べる


 公園の向こうに、トレイン・ビュー・ポイント(TVP)を発見。ここはJR常磐線、奥に東武線、そして新しく出来たつくばエクスプレスを眺めることが出来ます。都内有数の電チラポイントでしょう。同行者が辟易するくらい長居してしまいました。あそこは3時間くらい平気でいれます。プラス5ポイント。

 宿場町通りではなく裏道を歩いてみます。「めやみ地蔵」というお地蔵さんが道端にぽつんと佇んでいました。「め」「め」「め」「め」「め」「め」と書かれた絵馬がたくさんあり、とにかく目の悪い人がお参りをするところのようです。視力0.05のぼくは問答なくパンパンと手を叩きました。せめて0.1くらいにしてください。高望みはしません。一番上の文字くらい、読めたい。視力検査で一番上の文字が読めるまでちょっとづつ歩を進めていくあの情けない感じはもう味わいたくない。「はーい、0.05」。お地蔵さん、よろしくお願いします。

 宿場町通りに戻り、突き進んでいくとやがて商店もなくなり住宅地へ。交差点の端の看板に「←学びピア21」と書いてあります。なんだ、学びピア21。北1010。足立区は全体的にネーミングが微妙だ。行ってみるしかあるまい。


電車

電車

電車

めやみ地蔵

だんご屋

学びピア21に到着


 「学びピア21」はおそるべき学びの場所でありました。まずは1階から3階までが図書館。気合いの入った品揃え。ぼくが好きな落語のCDも非常に充実しています。そして4階5階は生涯学習センターと名づけられた学習施設があり、研修室、コンピューター室、ビデオ編集室、講堂、講義室などがあります。6階は放送大学学習センター。ここでは直接授業が受けられるらしい。なんだ学びピア21。近所に住んで毎日通いたいじゃない。

充実の落語コーナー

学びピア中

学びピアから見える北千住の風景


 学びピア21には駅側入り口と、土手側入り口があります。北千住の駅で買い物をし、商店街で団子やコロッケを買い、学びピアで散々勉強して、土手で寝転ぶなんて最高じゃない。なんともタッキーから聞いていた泥臭い北千住とは違います。商業と人情のバランスがよく、充実した学習施設があって、さわやかな土手がある。あんま文句の付け所がないじゃない。

 そのまま土手へ。荒川です。東京フィールドワークをしていると、なぜか川のある土地へ行ってしまいます。特に「川が見たい」という目的で行っているわけではないのに、最終的には川にぶつかることが多いのです。月島、錦糸町、三鷹、門前仲町、柴又、そして北千住。東京は、川の街。江戸時代の、川を生かした水路の発達たるやすごいものがあったと本で読んだことがあります。水の都ベェネツィアとまではいかないものの、小船で移動なんてかっこいいですよね。いまじゃありえませんもの。もちろん川はどしゃ降りによる氾濫という危険も孕んでいるので、今は護岸され埋め立てられ、川の数も減ったのでしょうが、東京の川というのはなんだかいいんです。多摩川も、隅田川も、荒川も。おおらか。落ち着く。ほっとする。静か。

 またこの北千住の土手は「ザ・土手」といった風情で、それもそのはず、金八先生に登場したあの土手が、どうやらこの北千住付近の土手らしいのです。土手、野球場、荒川、鉄橋、首都高。緑、鉄、土、車、電車。文明の成果と、自然の優雅さと、開発の副作用が混在したような風景。要はごっちゃごちゃ。でもこれが、東京の節操のなさをあらわしていて、なんだか居心地がよかった。田舎でもないし、都会でもないし、良い意味で中途半端な荒川の土手。曇り空の中、ぼくはちょっと汚れた川面を見ながらコロッケを食べました。なんだかいいなと頭の隅で思いながら。なにがいいのかは、きっと分析する必要なんてないんです。

 荒川の土手で、ぼくは川のゆとりにどっぷり甘えました。


土手へ

曇り土手

コロッケ

ひとり野球

チアリーディングを眺める

参加


 しばし土手で遊んだあとは鉄橋を見学。めちゃくちゃ近くで電車が見れます。あまりに近くで写真を撮っていたら「フォワーン」と警笛を鳴らされてしまいました。あまり近づきすぎない方がいいです。危険ですのでお下がりください。

 土手を後にし、北千住駅へ戻ります。なんだか、さわやかでしたよ、北千住。泥臭くディープな感じはほとんどなし。欲やら酒やら業やらの、人の無頓着をひそかに期待していたのですが、とても便利でアイテム充実、血の通ったいい感じのターミナル駅でした。足立区の気概すら感じました。やはりこのずれが、散歩の魅力なんですよね。本当に、行ってみないとわからない。

 相変わらず晴れない北千住の空を見ながら歩いていると、丸井に到着。ジュースを一杯。回想しながら、頭から毒が抜けていく。目一杯歩くと、いつもこうなります。


荒川橋りょう

近い

ジュース


 後日、マシンガンズのタッキーに「北千住、いいところだったよ。まったくきれいなところだった」と言うと、「吉川さん、だめですよ。本当のディープな街は南千住って言ったでしょ。あそこはすごいです。ぜひ」とのこと。

 なにがすごいのか、今度行ってみようか行くまいか。

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TOKYO FIELD WORK 2
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