王子
東京フィールドワークin王子
東京フィールドワークシーズンU、第2回目はなぜか「王子」です。みなさんは知っていますか?王子という街を。行ったことがありますか、北区王子。最近では愛ちゃんの「王子サーブ」とか、慎吾くんが「王子―」と呼ばれていたりとかしますが、その王子とはまったく関係なく、この土地に王子神社という神社があったので、王子という地名が付いたとのことです。
あと王子といえばなんと言っても「王子製紙」。日本初の製紙工場ができたのがこの王子。ということでここは王子様の街でもなんでもなくて、どっちかというと紙の街なんですね。紙の街。OH、地味!。ちなみに深キョンは王子生まれの王子育ちなんだそう。これちょっと以外。

ということでまた何の脈略もなく、東京の街に出かけます。
天気のいい秋の祝日。それでは出発。今回は王子、王子です。
一体どんな街なんでしょうか。

さっそく南北線に乗って王子駅で降ります。王子は南北線の他に京浜東北線、都電荒川線が走っています。アクセス的にはとてもグー。上野方面に行くもよし。新宿方面に行くもよし。南北線で都心を突っ切るもよし。かなり便利です。さっそくバスで来たドラゴン&ファンシーと合流。今回の写真を撮ってくれる二人です。ドラゴンは往復書簡でおなじみ。ファンシーはワズラワセでおなじみ。色濃いナイスな写真を撮ってくれるふたりです。
まず喫茶店で作戦会議。どこから攻めるか。どの出口の周辺を歩くか。実はこの東京フィールドワーク、スタートをどこから始めるかがかなり重要で、始める出口によって結果が全然違ってきます。地図を見てみると、ロータリーがある北口には何もなさそう。ということで「親水公園口」という謎の出口から始めることにしました。

喫茶店で地図を見る

ロータリーでも地図を見る

親水公園口からスタート


この出口いい!まるで温泉街に来たかのよう。都会の駅前とは思えない風景が目の前に広がります。いきなり川。そして紅葉。おいおい王子。工場地帯と思いきや自然溢れた街なのか。
といっても、この親水公園、かなり人口的な匂いがプンプン。おもいっきり護岸された川。コンクリ臭さを何とかカバーしようと、水車があったり、橋が掛けてあったり、木が植えてあったりしますが、無理矢理「水と親しもうよ!」感があることは否めません。三鷹を流れる玉川上水の方がまだ自然だった。でも駅前出たとたんに川が流れているというこの絵はとてもいいです。なかなかないよね、こんな街。出口が川と直結。ファーストインパクトはかなりの衝撃でした。

駅前が温泉街のよう

勢いのねぇ川だなぁ

紅葉の中を歩く

手作りの耳かきを売るおじさん

水車

橋の上で踊る
(少年が不審な目で見る)

ひとしきり踊り息が切れたところで、親水公園をあとにします。階段を上がると、そこは明治通り。車にまぎれて都電が走っています。なんだかちょっと「アジア」な雰囲気。車の渋滞にはまる都電。後ろから車に突っつかれる都電。電車のわりに以外と権威がないようです。動きがかわいいです。
すると明治通りの向かいに大きな公園を発見。地図で見たところどうやら「飛鳥山公園」っぽい。聞いたことあるぞ、飛鳥山公園。たしか桜の名所として有名な公園だったな。善は急げ、とにかく行ってみることにしました。
歩道橋を渡っていると、どこからともなく「きー」「ぎゃー」という子供の奇声が聞こえてきます。中に入ってみると、ものすごいガキの数!それに親もたくさんいる!なんだこれは。なんなんだこの日本の休日臭さは。垂れ幕をみると、「親子でチャレンジ飛鳥山!」と書いてあります。謎です。事態が把握できません。とりあえず公園内を歩いてみることにしました。

明治通りを都電が走る

どこからともなく
奇声が聞こえる
親子でチャレンジ飛鳥山

ぐったりスフィンクス

まぎれる

閉会式に出席


時間的にもう終わりの時間で、どこでどんなチャレンジが行われたのかはさっぱりわかりませんでした。ただ子供が異様なハイテンションで、休みを激烈に楽しんでいます。それもかなりアナログな遊びで。輪投げやら的当てやらでわっきゃいいながら遊んでいます。なんかいまの子供はもっとハイテクじゃないのか。デジタルじゃないのか。まだそんなにきゃっきゃっはしゃげるのか。それとも王子だけがアナログなのか。とにかく誰ひとりつまらなそうな子供がいない。みんなすごいテンション。微笑ましいです。
すると!11月も終わりだというのに、噴水の中央でまるで王子のように堂々と遊んでいる子供を発見。あまりの季節外れっぷりに呆然。えらい勢いで熱弁を振るっています。もうすぐ冬だぜ。異常気象の表れなのか。それとも彼が突出した存在なのか。とにかく、王子の王子は君に決まりだ!

あれは?

もうすぐ12月だというのに裸の王子

王子が熱弁を振るう


ガキ帝国と化した祝日の飛鳥山公園。罵詈雑言が飛び交います。ここはもう一緒に遊ぶしかない。ということで変な城でわっきゃ言いながら子供と遊びます。子供たちを投げ飛ばし、城を制覇し、タコの遊具の上でたそがれていると、独特の祝日感が胸を去来します。忘れていた何かを思い出します。子供の頃。親に連れて来てもらった公園。冬の祝日。たそがれ時。俺ももうすぐ27。6歳のときに結婚を約束したあの女の子は今ごろ何をしているのだろう。結婚、子育て、老後の心配。子供の「どっきゃー」という言葉にならない言葉を聞きながら、ぼくの頭の中ではなぜか自分がおじいちゃんになったときのことを考えていたのでした。

城を制覇する

滑り台で下城

タコの上で自分がおじいちゃんに
なったときのことを考える

さて、この飛鳥山公園の園内には「飛鳥山3つの博物館」と呼ばれる渋い博物館があります。「紙の博物館」「飛鳥山博物館」「渋沢資料館」です。ここへ行けばしばらくは子供たちの奇声から離れられます。それにしてもここは渋い。いささか渋すぎる。このギャップときたらなんでしょう。飛鳥山博物館では「赤羽台の横穴墓」という非常にミニマムな展示が行われていたので見てみましたが、ほとんどが人骨の展示で、さっきまでの賑やかな奇声にさらされていたぼくらはこの静けさに耐えられずすぐに出てきてしまいました。
また近くには渋沢さん(お金持ち)の庭園があって、これまた静かです。空気がしんとしています。平日なんてもっと静かなんだろうな。このチルドレンモードからアダルトモードに切りかえを強要されている感じも、なかなか悪くはありません。ただ、この3つの博物館を楽しめる人はかなり老人度が高い人といえるでしょう。

紙の博物館

飛鳥山博物館

渋沢さん

渋沢さんの豪邸

離れのような建物

庭で暴れる


チルドレンからアダルトへの強制的な変換を余儀なくされ、切りかえスイッチがバカになったぼくたちは、いっそ都電に乗ることにしました。路線図を見てみると、なかなか魅力的な駅があります。中でも「荒川遊園地前」という駅が気になる。遊園地かぁ。考えてみれば遊園地にもだいぶ行ってないな。5年前くらいに行ったディズニーランドが最後だ。それも「荒川遊園地」という泥臭い響きもかなり気になる。そもそも、「○○遊園地」という名前自体、今では珍しいじゃないか。サマーランドとか、読売ランドとか、としまえんとかはあるけど、己を「遊園地」と名乗った遊園地は、大概がもう潰れてしまった。小山ゆうえんちしかり、二子玉川園しかり、向ヶ丘遊園しかり。時代ともに忘れ去られ、消え去る運命の「遊園地」。こりゃこの目で確かめるしかあるまい。ということで、飛鳥山公園から都電に乗り、荒川遊園前で降りることにしました。
都電が以外と混んでいる。混んでいるどころじゃない。ぎゅうぎゅうだ。祝日の都電はどこからどこへ向かう人々なのかはさっぱりわかりませんが、かなりの混雑率です。これご用心。あと運転手のテクニックが素晴らしくて、小刻みにブレ−キングをする右腕はかなりの見物です。電車ファンは必見!

都電がやってくる

クラシカルな運転台

荒川遊園地に到着


5分ほど歩き、だんだんと荒川遊園地が見えてきます。と同時に、さっき飛鳥山公園で聞いた子供の奇声がふたたび聞こえてきます。「うっきゃー」「ばっきゃーん」。嫌な予感がします。
入園料はなんと破格の200円。子供は100円。えらい安い。ディズニーランドなんて5000円くらいするぞ。さすが荒川遊園地。荒川価格破壊。
入園するとこれがびっくり!ものすごい人の数です。そしてまたまた親子。ガキ帝国アゲインです。園内を所狭しとチビっ子が駆け回っています。また驚いたことに乗り物が6つしかありません。「観覧車」「スカイサイクル」「コーヒーカップ」「メリーゴーランド」「ミニコースター」「豆汽車」。どれもかなりしょぼいです。それなのに乗り物の前には長蛇の列。みんなどうした。供給不足か。荒川区には他に遊ぶところがないのか。それもみんな笑顔じゃないか。これでもかというくらい楽しそうじゃないか。みんなが楽しいならそれでいいけど、お兄さんもっと楽しい遊園地を山ほど知っているぞ。こんなにしょぼい遊園地のどこが楽しいんだ。

しかしぼくはこの荒川遊園地を見渡しながら思ったのです。これがまさに遊園地の姿だと。ド派手な演出とか、スリル満点の乗り物なんて、本当はたいしたことないんだ。過剰レースはきりがない。激辛ラーメンと同じだ。どこまで辛さを競い合っても、結局最後は「辛い!」でおしまいなんだ。遊園地に大事なのは過剰さではなく、イマジンだ。もっと言えばぐだぐださだ。大いなるゆるさだ。そこにはたくさんの隙間があり、想像力がある。子供にはそれぐらいがちょうどいい。人は完璧なものほど、あら探しをしてしまう。ミッキーマウスの中に入っている人の顔を思い浮かべてしまう。ただここはどうだ。ジェットコースターはボロボロだし、従業員はおばちゃんばっかりだし、観覧車は中途半端に低い。こちらが能動的に楽しまないと楽しめない空間。でもそこにはしっかりとしたぬくもりがある。そのぬくもりに用がある。昔はこんな遊園地がたくさんあった。ぬくもりがあって、中途半端で、ぐだぐだな遊園地が。ぐだぐだなだけに、みんな潰れてしまった。でもここはハードルを下げて、元気に営業している。2004年。東京にこんな遊園地がまだあることに、ぼくはうれしくなった。同時に、荒川区のガキ共はだまされ上手だと思った。

わくわくメルヘンランド
あらかわ遊園
子供だましのドラゴン

夕暮れの遊園地

観覧車

観覧車に乗るのなんて
何年ぶりだろう
頂上から見渡す隅田川

遊園地で飲むビールはおいしい

空になった動物小屋

すっかり日が暮れてしまった


ぼくがもしお父さんになったら、まずはこの遊園地からはじめよう。もしかしたらこの遊園地はカップルで来ても楽しめるかもしれない。この遊園地を楽しめるカップルは順調なカップルだ。ふたりに「逆にね」の発想さえあれば、ここはずいぶんと楽しめることでしょう。

ということですっかり日も暮れ、都電に乗り王子駅まで折り返します。駅前を見渡してもたいして目を引くものはありません。普通のロータリー、駅ビル、居酒屋。「せっかくだからい今日はいつもと違ったものを食べよう」ということで、ぼくたちはなぜかしゃぶしゃぶを食べ、お腹いっぱいになったのでした。うー、喰った喰った。

都電を待つ

これといって何もない王子の駅前

しゃぶしゃぶで曇る


ということで、休日は子供の奇声がこだまする、ガキ帝国・王子でございました。都電が走り、ガキが騒ぎ、車が渋滞し、川が流れる。正直言ってあまり脈略のない街です。でもこれも行ったのが祝日だったからでしょう。平日に行けば逆にかなり静かなんじゃないかと思います。目立った繁華街もなし、お祭りスポットもなし。休日になると、とたんにテンションが上がり、狂ったような奇声が聞こえてくる。
子供と老人。穏やかさと狂気。ぬくもりと冷たさ。

紙の街だけに、まさにすべては紙一重。
…お後がよろしいようで。

TOKYO FIELD WORK 2
TOKYO FIELD WORK 2