「赤羽」はもともと「赤羽根」と表記されており、赤羽根のハネ(羽根)とは、ハニ(埴)の転化と言われている。「ハニ」は黄赤色の粘土を指し、それ故、赤羽は赤土の台地に付けられた地名とされている。JR埼京線の中間地点に位置しているが、最近では新宿湘南ラインやりんかい線、また南北線も開通し(赤羽岩淵)ますますアクセスがよくなった。北区赤羽。どことなく埼玉の匂いが漂う街。

トラベル感満載の街、赤羽

年明け一発目の東京フィールドワークは東京の最北端「赤羽」です。
これまで西へ南へ行ったことのない東京を歩いてきましたが、いわゆる「北」方面は
まだ行っていなかったので、今回は北区の中心、赤羽に行ってみようと思いました。
赤羽と言えば、ぼくが大好きなエレファントカシマシ宮本浩次の生まれた街。
あとは営業で埼玉に行くときに埼京線の車窓から見える街。情報はそれだけ。
っていうかこりゃ情報でもないですね。イメージはというと、何というかJR臭い街というか
(ぼくは私鉄沿線で育ったのでJR臭のする街に多大なる興味と恐れがあります)、
「何かがこびりついている」街ではないかと思っていました。よくいえば人が根付いている。
悪くいえば古臭い。あとは皆目見当がつきません。どんな街なんでしょうか?
ということで、今回はぼくとその友人チェアマン(撮影担当。DHwebの総帥)、
同じくドラゴン(変なもの探し担当。蜂蜜糖の日々でおなじみ)とその彼女ファンシー
(撮影担当。本業webデザイナー)の4人体勢で行ってきました知らない街へ。
なので今回はチェアマンとファンシーのふたりが写真をばしばし撮ってくれました。
ドラゴンはというと街に細かいつっこみを入れながら、赤羽を感じ、歩いていました。
ときどきファンシーに「仕事してよ」となぜか怒られていたけれど。
正月の雰囲気冷めやらぬ1月5日(日)。気温5℃。
真冬の東京フィールドワークIN赤羽。
はじまり、はじまりー。ででん。

まずはJR埼京線の赤羽駅で降ります。渋谷から約20分。思っていたよりも近い。
駅前を見渡すと…寒い!!本当に寒い。冷たい風がぴゅーぴゅーと音を立てて
顔面を突き刺してきます。あらためて街を見渡すと…普通。ターミナルに駅ビルに
イトーヨーカドー。どこにでもある、駅前の風景。普通が一番困るんだ。書くときに。
そんなことを思いながら歩いていると、なんだか得も知れないメロディが聞こえてくる。
ちょっとフラメンコ調の、だけどよくわからないメロディライン。そこに尾崎豊風の歌詞。
ぱっと目をやると、そこには頭の禿げ上がったおじさんがひとりギターを弾いて歌っている。
おいおい、と言いながら近寄ってみると、そこには「永遠の少年」と書かれた紙。
形容し難い歌を綺麗な声で歌っているおじさん(いや、少年)。
「♪何とかにぃ、祝福をー」とか歌っていた気がする。ギターテクニックは抜群にうまく、
寒い中丁寧にコードチェンジを繰り返し、その美声を赤羽にとどろかせている。
「これはなんだ↓」という紙切れに従い、下を見てみるとぽつんとCDが置いてある。
「CDじゃん」とドラゴンが鋭いつっこみを入れる。たしかに「これはなんだ」の意味が
わからない。ただのCDじゃないか。しかしそのメロディときたらまったくルーツが見えない、
唯一無比のオリジナリティに溢れていて、かなり新鮮なものだった。いや本気で。
J―POPの新たな可能性を見た気がするようなしないようなだ。しかしなにも
名前が「永遠の少年」じゃなくてもいいじゃないか。偉大な勘違いを公然と披露している
おじさん(いや失礼、少年)。これは大きな赤羽インパクトでした。
行った方はぜひチェックを。もしかすると、もしかするかもしれない(なにが?)。

第二の赤羽インパクト。それはロータリー内にあるおバカな銅像。
健康美溢れるふたりの青年が、肩を組んで裸で立っている。あっちが「永遠の少年」
ならば、こっちは「裸の青年」だ。この銅像、おちんちん丸出し。それも微妙にリアル。
いささかゲイ的。もちろん、ぼくは肩を組んで赤羽のロータリーにまぎれこんだのです。

赤羽駅
寒い。
幻想的なメロディに誘われて…


永遠の少年。
力強い赤羽の銅像。
まぎれる。


さて、赤羽をぶらぶら。なんだかイトーヨーカドーがどこからでも見える。
まるで街の象徴のように、どかんと誇らしげに立っている。路地に入ると、
とたんに古い建物がちらほらと顔を出す。町内板を見てみると、どうやら
近くに神社があるらしい。いいね、いいね。いーねっ。こうなりゃもちろん初詣だね。
よし、じゃあとりあえず神社へ行ってみようということになり、そこらへんを徘徊していると
急に目の前にトンネルが現わる。そしてその上にどかんと団地が建っていた。
それも半端な大きさじゃない。ものすごいでかさだ。
でも街の中にトンネルってあまりないですよね。その上に団地がどーんと
あるんだもの。ダイナミックというか、立体的というか、レゴで作った街みたいだ。
あとから思えば、ここはエレカシ宮本が住んでいた団地じゃなかったか?
たしか赤羽の団地育ちと言っていたから、たぶんあそこに違いない。
それにしても広大な団地空間。赤羽の象徴は、実はこの団地だったのだ。

どこからでも見えるヨーカドー。
トンネル現る。
団地をうろつく青年3人。


同行してくれたファンシーがしきりに「かわいい」というので、「なにが?」と聞くと、
「団地が」と言っていた。男3人、うーんと唸り、「そ、そうか?」と考え込んでしまった。
まぁでもたしかに色使いがかわいいと言えばかわいい。クリーム&オレンジの
色使いで、かわいいと言えばかわいい。しかしどこまでも続く団地空間。
ぼくが行きたいのは神社だ。ぜったい初詣するんだ。ということで猫に餌を
やっていたおばちゃん軍団に「神社はどこですか?」と聞く。
すると「上行って、すぐ」と簡素な説明を受ける。
行ってみたら団地の中にあるちっぽけな神社だった。
たぶん違うよ、おばちゃん。

いちおうお賽銭を入れ、「本当の」神社を探すべく、ふたたび街へと戻ってみる。
道中、おばちゃんに「神社はどこですか?」と聞いてみると「下って左」とこれまた
簡素な説明をされる。まるで「1+1の答えがわからないんですが」と中二に聞かれた
数学教師のように、「なんでそんなことも知らないの」というような不思議な顔で
こっちを見やる。しかしぼくらははじめてこの街にきたわけで、どこを下るのか、
どこを左に曲がるのか、よくわからないまま街を歩くことになった。
一応それらしき道を下ると古い商店がぽつぽつと軒を連ねていた。
赤羽メガネセンターもあった。へぇ、いい感じだねぇとぼくらはのんきに
歩いていたけど、問題の神社はいったいどこにあるんだろう。
下って左―。赤羽のおばちゃんの道案内はみな暗号めいている。

小さな神社でお賽銭。
大きな神社はどこだ!?
赤羽メガネセンター。


「寒いねぇ」「うどん食べたいねぇ」と会話しながら5分くらい歩いていると、
突然、異様な光景が目の前に広がる。鳥居が、坂道の途中にかぶさっているのだ。
うーん、わからないかなぁ。急な坂道の途中に、こう無理やりかぶせたみたいに
鳥居が刺さっているんです。普通坂道の途中に鳥居なんてないですよね。
だいたいは平地にどーんと立っているものだ。わからないかなぁ。
えーい、こんなときは写真!!

ストレンジ鳥居。


どうやら神社に着いたようだ。人が誰もいない。新幹線、埼京線、それぞれの
陸橋に挟まれる格好で、その神社は所在なさげに存在していた。
それはまるで秘境のようでもあり、取り残された遺産のようでもあった。
丘の上に静かにたたずむ孤独な魂。ぼくは急な階段をヤクルトのキャンプばりに
駆け上がった。運動不足のため息を切らしながらも、ようやく登頂。お目当ての神社だ。
おじいちゃんが「どん」と座るみたいにその神社はあった。赤羽八幡神社というらしい。
しかしこの神社、歴史をたっぷり吸い込んだ由緒正しい神社だったのです。
ここで解説が入ります。

「赤羽八幡神社」…伝説によればこの神社は延暦年間(782−806)、東征の途次であった
坂之上田村麻呂がこの付近に陣を敷いたのに始まる。正長(1428−1429)の頃太田資清が
社領として一貫文の地を寄付し、文明元年(1469)太田道灌が社殿を再興したということである。
現在の本殿は昭和六年(1931)に改築されたものであり、右側の神楽殿は三枚の絵馬が
奉納されていて絵馬堂も兼ねている。境内からは縄文式土器・土師器が発見されていて、
縄文時代中期・弥生時代後期・歴史時代の遺跡とされている。

…ありがとうございました。解説はいったい誰だったのでしょうか。まぁいい。
どうやらすごいらしいです。そして境内の奥にはなぜか日露戦争の戦没者を埋葬する
蔵のようなものもあって、この蔵がとにかくすごいオーラを発していた。
あまりヘタなことはできない感じがした(当たり前だ)。そして蔵の奥がちょっとした
見晴らし台のようになっていて、ここからは赤羽や荒川を一望できる。
青空、住宅地、埼京線、でっかいタワー、水門に河原。この風景はなんだろう。
どこか懐かしい匂いのする、東京の風景。うーんと唸り、しばし眺め、ふたたび境内に戻る。
さて、初詣だ。なんとこの「赤羽八幡神社」、勝負の神として崇められているようで、
そろそろ勝負をしなくちゃいけないぼくにはぴったりの神社だ。
お賽銭を投げ入れ、早口で100個祈願をし、大きな鈴をジャラジャラ鳴らした。
典型的な日本の正月が、今年もやってきたのだ。

頭上に新幹線。
長い坂を駆け上る。
赤羽八幡神社

戦没者の蔵
丘からの風景
祈る。


さて正月言えばあれですよ、おみくじですよ。絵馬ですよ。
なんとこの神社には「恋みくじ」なるしゃれたものがあって、今年1年の恋を占えて
しまうという画期的なおみくじなのでした。よし、100円、念じ、引く!!
…お、「吉」だ!!いいねぇ。普通にいい感じだねぇ。あ、その上に「恋の歌」なる
ものが書いてある。なんだ、なんだ、えー

「神様が下さった恋 ひとときも忘れないでよ ふたりのために」

…なんだこりゃ。いささか渋ーい空気が流れてきたぞ。お、愛情運が書いてあるぞ。
本題だねぇ。いいねいいね、読んでみよう。
 
愛情運。

「ふたりの巡り合わせは、神様が下さったものです。将来のためにも 
この愛を忘れることなく、大切に育てていきましょう。あれこれと迷って浮気をすると、
人生が破滅することがあります」


…なんだこりゃー!破滅ってなんだぁ!!
おみくじってさ、基本的に1年単位のものじゃないのか。人生のことまで
占われてしまうと困ってしまうよ。有効期間があまりに長すぎるじゃないか。
おい、これ本当に吉なのか、おいおい!とぼくがわなないていると、そばで
笑っていたチェアマンも同じの引いてやがんの。浮気は破滅。破滅は浮気。
おいチェアマンこれじゃあ俺たち合コンで気軽にお持ち帰りできないね
(二人とも合コン行ったことない)。

あー、こうなったら絵馬絵馬!!エマエマ!!
よーし、思いのたけを書いてやるぞ。…うーんなに書こうか。こういうの困るな。
さっき100個お祈りしたしな。こうなったら、あれしかない!
うん、あれだ!

おみくじを引く。
絵馬に願いごとを書く。
売れたい。


しかしこの神社はいいですよ。横をびゅんびゅん新幹線が通り過ぎていくけれど、
南の赤羽、北の赤羽、両方とも一望できます。境内もしっかりと古くていいです。
夜はさすがに怖いと思うけれど…。

さて、ぼくらは神社を後にし、電車のガードを2本くぐり、先ほど行った街の
反対側を目指します。つまり団地やヨーカドーの逆サイドを攻めようということです。
ほどなく商店街が姿をあらわすのですが…これがまったく予想外の商店街。
まるでアメ横。うまそうな飲食店におやじの飲み屋、とにかく人がたくさん。
あれれ、赤羽って実はこっちがメインなんじゃない?「一番街」に「OK横丁」。
どこも正月だというのに活気に溢れていて、渋くて安くてとてもいい。
中には「ABC」という謎の店まであって、看板にはF=¥4000 S=¥8000と
だけしか書いていなく、入ろうか迷ったけどやめました。なんでしょう、FとS。
うーん気になる。でもあれですかね、やらしいやつですかね。
あらら、でもSで8000円なら安いじゃんね(だから何のSだよ)。
…破滅するのでやめましょう。

一番街を左に折れ、まっすぐ歩くと、これまた長い商店街「LaLaガーデン」が
あります。これまた店の種類豊富。大戸屋からフランス亭からマックからダイエーまで
なんでもござれ。「あ、俺ここ住めるわ」とチェアマンが呟いていました。
商店街の中にはなんと中学校まであって、「絶対あそこは“LaLa中”ってバカに
されてるよね」とドラゴンが言っていました。たしかに言われていそうだね。
長―い「LaLaガーデン」を抜けると、またまた別の商店街が続いている。
すごいなぁ赤羽。よくもまぁ各々の店が食い合うことなくやっていけるもんだ。
おそらく人口がかなり多いんでしょうね、この街は。

いよいよ体が冷えきってくる。何でもいいから暖かいものを食べよう。
と、そこで小さなおそば屋を見つけました。メニューをみるとぼくの大好きな
「ほうとう」があったので、こりゃ入るしかなかんべということで、おそば屋さん
で休憩。そこで赤羽についていろいろと語り合う。過去のものと新しいもの
との妥協。それだけに無理やり街が立体的になってしまっていること。

ほうとうが運ばれてきました。ぼくはほうとうに目が無いのです。

OK横丁。
謎の店「ABC」。
ほうとうを食べる。


うまかったぁ。あたたかーい。手打ちー。
いや、本当においしかった。赤羽でこんなにおいしいほうとうが食べられるとは
思っていませんでした。またこのお店がなぜか「旅に来た」ような錯覚に
陥ってしまう店で、東京なのに、長野とか、新潟とか、とにかく温泉に来たような
ムードになってしまって、ずっと「このあと風呂入ってぇ」とか「あしたどうする?」とか
錯覚の旅を楽しんでいました。全然遠くにきていないのに、なぜか旅をしている
ような錯覚。あのトラベル感はなんだったのでしょう。テレビではずっと古い時代劇
やってるし、囲炉裏があるし、うどんうまいし。完全にスキーとか、温泉のムードです。
明日からの仕事、チョモランマのように山積みされた懸案。退屈な現実、戻るべき生活。
そんなところから解放されて、みんな好き勝手に空想していました。
チェアマンは本気で「このあと健康ランド行こうぜ」と言ってしましたが。

なんで旅というやつはあんなにワクワクするのでしょう。
「限定されているから」でしょうか?ドラゴン、今度そこらへんを書いておくれ。
人任せにしなーい。でも頼むね。

さてすっかり夜です。といってもまだ6時くらいなんだけれど冬なので真っ暗です。
「LaLaガーデン」を引き返し、駅の方まで戻ってきます。よーし、もう暗いから
打ち上げちゃおう!!みんなおつかれさん。ということでお楽しみビールタイム突入です。
店がよくわからないので、白木屋に入ることにしたのだけれど、ここがまたでかい。
4人なのに個室。カラオケつき。なんだここは。さっきのトラベル感ふたたび復活。

夜の赤羽。
出たビール。
ドラゴンアッシュを歌う。


「ほらさ、街行っても何にもないからホテル戻ってきて仕方なくカラオケしてるみたいだね」
「だねだね」
「ゲームコーナーとかありそうだね」
「ありそうありそう」
「っていうか、もうあるだろ」
「明日はどうする?」
「明日はー、なんか観光名物見てぇ、街で買い物だな」
「いいねいいね」
「おれ、明日仕事だから朝イチで帰るわ」
「吉川!!」
「まじかよぉ。帰るのかよぉ」
「おれここに残る」
「ドラゴン!!」
「おれ、ここにずっといることにする」
「何いってるんだよ」
「決めてたんだ。おれこの土地で一旗上げようと思うんだ」
「何いってんだよ、東京に帰ろうよ」
「やだ」
「わたしも!」
「ファンシー!」
「じゃあ、ふたりで残るっていうのか。本当にいいのか」
「あぁ俺この旅で、この土地が好きになっちゃたんだ。ファンシー、いいよな」
「うん!」
「♪何とかにぃ、祝福をー」
「永遠の少年!!」
「CD買ってくれ」
「やだ!!」(一同)
(すべてぼくの妄想です)

…赤羽はそんなトラベル感満載の街でした。また次回!!