地名の由来にもなっている「高円寺」は、正確には「宿鳳山高円寺」といい、環状7号線にほど近い場所にある。1555年に開山された曹洞宗の寺で、三代将軍の徳川家光が鷹狩りの折りにしばしば立ち寄ったという。高円寺以外にも、明治から大正時代に行われた東京都心の都市開発によって、福寿院などの寺が高円寺に相次いで移転し寺の数が増えたようだ。新宿から10分と非常にアクセスがよく住宅地も多い。杉並区高円寺。ダンスダンスダンスな街。

総武線に乗りどこにいこうか考える。

〜踊りまくりな街、高円寺〜

寒かった。その日はとても寒かったのです。
死ね死ね団みたいな寒気団が、せっかくの日曜日をぐるりと囲い、
何をやるにしてもテンションが下がるようなシステムをゴリゴリと構築している
ようでした。いまにも雨が降りそうな天気。気温5度。あるかないか。
ぼくとオートバイは前日、西東京のある場所へ行くことを決めていたのですが、
当日渋谷で会ったらもうそこには行く気がしなくて(けっこう遠いところなのです)、
「雨も降りそうだし近場にすんべ」と急遽行き先を変更することになりました。
とりあえず、中央線にでも乗るかと新宿へ行ったら、ちょうど総武線が
出発するところ。あー、総武線も同じようなものだと三鷹行きの電車に乗りました。
うーん、どこに行こうかと考えます。相変わらずの天気。どこに行こうか考えます。

「高円寺とか荻窪は?」
「おう!行ったことない!でもなんかあるかな?」
「あるだろ、ラーメンとかうまいんじゃないの?」
「おう!いいねいいね!あ、もう高円寺だ!とりあえず降りちゃえ!」

ということで今回の東京フィールドワークは何のあてもなく高円寺に決定!
まぁそもそも毎回あてがあるわけでもないのでいいのですが、それにしても高円寺。
全然何があるのかわかりません。ぼくは高校の頃、となり街の中野に住んでいた
ことがあるのですが、なぜか高円寺には行ったことがありませんでした。
というか中野の次が高円寺だったということを最近知ったくらいです。黙殺していたのでしょうか。
あの頃は初恋とかバイトとか初恋とかで忙しかったからなぁ…ってどうでもいいですねそんなことは。
とにかく高円寺といえば「芸人が何人か住んでいたな」ということしか思い当たるところなし。
でもけっこう人気の街ですよね。新宿にも近いし、環七も走ってるし、そこまで物価も高くなさそう。
そしてけっこう静かそう。さーて今回はイメージ通り行くでしょうか?
ではご案内。高円寺〜なぜか高円寺〜。

なんだか賑やかそうな北口の方から攻めてみます。
さっそくお目見え放置自転車の嵐。毎回思いますが放置された自転車というのは
見事に景観を日本的にしますね。「世界の駅前クイズ!」なるクイズがあったとするならば、
(世界各国の駅前の写真を見て国名を当てる)、放置自転車の嵐を見ればすぐに
ピンポン!日本!正解!と何の苦慮もせずに当てられると思います。
でもあれは汚らしいし何とかならないものですかねやれやれ、…ってぼくも
地元の駅でおもいっきり自転車を放置しています。それも鍵をせず。
いつも時間ギリギリに出て電車に飛び乗るので、鍵をするのがわずらわしいんです。
だから「どかーんがしゃーんえいやー」とまさに「放置」そのままです。
日本は平和なのか一度も盗まれたことなし。全然自慢になりませんが。
そんなわけでここ高円寺も「どかーんがしゃーんえいやー」の列が無造作に
出来上がっています。蹴っ飛ばしてドミノ倒しでもしてやろうかと思いましたが、
行きつく先が交番だったのでやめました。でも自転車と一緒に交番も
倒れたらおもしろいですね。「コーラー吉川!」「てへへ、ごみんなさーい」。
まるで古い四コママンガのようです。

ちなみに高円寺の家賃事情ですが、けっこうピンきりでした。
おすすめは6畳風呂なしの1Kで3万5千円。銭湯へ3分!駐輪可!
うーん、「駐輪」がそんなに売りになるとは…。
けっこう止めるところないんだな、チャリンコって…。

高円寺北口。
放置自転車の嵐。
銭湯へ3分!3万5千円。


さてみなさん知っていますか?高円寺といえばあれですよ、あれ!
えー!?知らないのぉ?だっさー。信じられへーん。くっさー。めっさくさいわー。
そこまで言うことも全然ないけれど、高円寺といえばあれです。そう!阿波踊りです。
駅前にも「阿波踊りの街 高円寺」という写真入りの看板があります。
…ですがそもそもなんで高円寺が阿波踊りの街なのでしょう。全然知りません。
なんでなんでしょう。阿波踊りって四国の方の踊りじゃなかったっけ?
なので高円寺と阿波踊りの関係について詳しい方、ぜひぼくにメールをください。
町おこしの一環なんでしょうか?気になるなぁ。まいいか。いいよねそんなこと。
ということで曇天模様の空の下、ぼくは無心で阿波踊りをしました。


阿波踊りを踊る。
阿波踊りを踊る。
阿波踊りを踊る。


ふぅ。体が暖まったぜ。たぶん踊りが全然間違ってるけどいいや。
よし、街を歩いてみよう。
お、「純情商店街」なる洒落た名前の商店街があります。
同行してくれたお笑いフォトグラファー・オートバイさんによると、この純情商店街は
ねじめ正一さんが書いた小説「高円寺純情商店街」の舞台だそうです。
そもそもは違う名前だったのを、この本が売れたのを契機に改名したそうです。
ぼくは読んでいませんが、どうやら直木賞まで取った作品らしい。
なーんだ。こんなことになるなら読んでおけばよかった。
さて、商店街を歩いてみます。うん。なにひとつ変わったところはない。
普通に便利そうな商店街だ。ここのどこが純情なんだろう。阿波踊りといい
ルーツが見えないぞ高円寺。商店街では純情どころか「道路建設反対!」という
物々しい看板とか、バブルの遺産のようなでっかい空き地とかがあって、
なんだか喧騒と倦怠が入り混じったようなムードまで漂っています。
おいおい純情はどこへ行った。それと「3分の1の純情な感情」という歌を
歌っていた人はどこに行った。わかるかなぁ?わかんないだろうなぁ。
全然高円寺とは関係ないですね。

ガードをくぐり、今度は反対側へと出てみます。南口の方です。お、またまた
長く伸びる商店街が…が、く、くらい。暗いぞ。夜みたいに暗い。
あら、どうやら商店街に屋根をつける工事をしているようです。
でもこれがなんだか、どうにも説明がつかない感じになっちゃっています。
まるで闇市みたいな雰囲気です。また天井に100円ショップで買ったような電飾が
チカチカと飾ってあって、余計に怪しい雰囲気になっちゃっています。
これはこれでおもしろいですが、なんとも購買意欲が失せる商店街です。
まぁ完成したらちょっとしたプロムナードみたいになりそうなので、商店街の
人はしばし我慢。それにしても変だなぁ。と、ここで
「焦点が合わないから写真が取れない」と嘆くオートバイさん。
「あら。フラッシュは?」
「好きじゃない」
さすがこだわり屋のオートバイ。で、ですが写真がないのも困ります。
いいや、こういうときは踊っちゃえ!♪ちゃんかちゃんかそれそれ〜いえーい!
ということで無理矢理写真を取ったのですごく躍動感のある写真に仕上がりました。

純情商店街入り口。
商店街を歩く。
とりあえず反対。


空き地の前でも踊る。
暗い商店街入り口。
ダンスインザダーク。


踊ってばっかだ。寒いからだ。それと特に商店街以外は目ぼしいものが
見当たらないからだ。しかしぼくは歩きます。ダーク商店街を抜けると屋根が
なくなって、古い感じの商店街へと続きます。うん。いい感じだ。どっちかというと
こっちの方が純情な気がする。店もレトロで、手作りの表示が間違っていて、
床屋さんのポスターがやけに古い。まっとうに時間を消化した純情な商店街です。
おじちゃん、おばちゃん。売れそうもないサンダルとやけに安い洋品店。
どこにでもあるような古い商店街だけれど、やはりそこには「味」があって
なんともいい感じです。どうか万引きなどされませんように。

あ、そうそう。歩いていて気になったのだけれど、
高円寺というからには「高円寺」なるお寺があるはずだ。地名にもなっているし、
ここらへんの近くにないだろうか、と思いパン屋のおばさんにきいてみることにしました。

「高円寺ってここらへんにありますか?」
「あるわよ。えっとね、駅に戻ってぇ(また戻るのか…)、線路沿いに坂があるから
 そこを下ればすぐよ。駅から5分くらいかしら」
「ありがとうございました」

また戻るんだって。あらら。
ふー。けっこうクタクタになってきたね。そしてお腹が空いてきたね。
あ、ダーク商店街の入り口にラーメン屋があったね。よし、もう1時半だし、飯でも喰うか!
ということで商店街を逆戻り。一心不乱にラーメン屋を目指し、遅めの昼食と相成りました。

元祖純情商店街。
セルー品。
色あせた吹越満ポスター。


超楽しい。
道を聞いたらおばちゃんまで阿波踊り。
ラーメンにありつく。


ふぅ…。脂っこかった。オートバイさんはキャラ通り大盛りを食べていましたが、
最後の方はちょっとしんどそうでした。ま、いいか。腹も満たされたし、高円寺に向かおう。
駅前には鳩の大群。ちょっといやよね。閑静な住宅街。カッコいい家。住んでみたいね。
とウロウロと歩いてみたけど、あたりを見渡しても全然寺の雰囲気がない。
環七に出てしまった。高円寺はどこへ行った。いったいどこにあるんだ!?
しばしそこら変を歩いてみるも、結局くたばって見つかりませんでした。まぁまぁ。
お寺はいつも行ってるし、ご愛嬌だろう。ということで環七沿いを歩いて行きます。
ほどなく大きな交差点にぶつかり、それを渡るとなにやら大きな公園が。
「蚕糸の森公園」(さんしのもりこうえん)です。蚕糸試験場の跡地に作られた公園らしく、
けっこう大きな公園です。休日にはフリーマーケットも催されているらしいです。
しかしこの冬の寒空。日曜だというのに公園は閑散としています。無言で噴水を見つめる
家族連れ。老いぼれた犬を連れている老人。重たい空。大きな白い木。
まるでここが高円寺ではなく、チェコに見えてきました。いや、チェコには行ったこともないし
ぼくの勝手な想像に過ぎないのですが、ぼくの中で、あの感じはどう見てもチェコなのです。
「存在の耐えられない軽さ」というチェコを舞台にした長い映画がありましたが、
あの冷たくて、淋しくて、だけど情熱がどこかにまだ残っている、あの感じです。
全然伝わらないでしょうが、蚕糸の森公園、あそこは完全にチェコです。
もちろん天気や気温が違えばがらっと変わるんでしょうが、ぼくらが行った日の
蚕糸の森は、完全にチェコ化していました。そこはすでに「チェコの森」と化していたのです。
錦糸町に続き、ぼくの「淋しい病」が顔を覗かせてきます。はぁ。なんとも言えない
淋しさだねぇ。本当に知らない街に来ちゃったんだねぇ。はーあ、人生というものは…
だめだ!だめ!人生とか言い出したらダメ!ふー、危なかったぜ。ぼくまでチェコ化
してしまうところでした。踊ろう!こんな時は踊ろう!景色も老人もみんな踊ろう!
ということで阿波踊りを超えたぼくの独創的な踊り、題して「チェコ踊り」が悠然と
始まったのです。

高円寺鳩軍団。
しゃれた家。
環七を歩く。


蚕糸の森公園(いらっしゃーい)。
まぎれる。
チェコ踊り。


公園の奥に学校があります。小学生・中学生がサッカーをしています。
けっこう本格的です。いいなぁ。急に混じったら怒られるかぁ。ということで「入れて!」と
手を上げるも無視されました。当たり前だよね。どこの人かもわからない変なメガネの
お兄ちゃんが急に入ってきても困るよね。またこのお兄ちゃんサッカー下手だしね。
ということでぼくは控え組にまわりました。「調子どう?」とぼくが控えの少年たちに聞くと、
その子たちにも無視されました。懐かしの「集団無視」というやつです。「悩みとかあんの?」と
聞いても何も答えてくれません。仕方がなく、ぼくはその場でずっとサッカーを見ていました。
反則行為には「あー!」と驚嘆の声を上げ、「そりゃないよー」とさも自分のチームが
やられたような雰囲気を醸し出しました。「今のはないよね」と少年たちに聞くと、
「まぁね」とやっと話してくれました。ぼくは満足し「アップしておけよ」とだけ言い残し、
その場を立ち去りました。これではまるで本格的に変なお兄ちゃんです。

ぷらぷら歩いてると人力舎のオフィスを発見。スクールJCAもあるようです。
明かりがついています。レッスンの真っ最中でしょうか。一瞬まぎれに行こうかと
思いましたが、校長に怒られたらいやだし、この事件がきっかけで事務所間の
抗争に繋がっても嫌なので(ありえないだろう)ここはやめておきました。
…当たり前です。

蚕糸の森公園を出て青梅街道を都会に向けて歩いていると、東高円寺駅を発見。
おう!丸の内線じゃないか。そんなのまで走っているのか高円寺。便利だなぁ。
アクセス・ケアばっちりの街ですね。ただこの駅前にはほとんど何もありません。
変な形のマンションくらいです。まるで木を積み立ててそっと抜いていく、あの
「ジャンガ」みたいなマンション、見ものといえばこれくらいです。
あ、モスがありました。いい加減からだの冷えがどうしようもないので、モスで休憩。
暖かいウーロン茶を飲みます。メガネが当然曇ります。オートバイもメガネなので
曇ります。ぼくらは自動販売機の表示のように「あったかーい」と声を上げ、
しばし無心状態が続きました。いやー寒かったねお疲れさん。

「じゃ!荻窪に移動しようか!」
「えー!?」

無視される。
控えにまわる。
東高円寺に着いた。


ジェンガのようなマンション。
モスで曇る。
丸の内線で荻窪へ。


よし着いたぞ。ということで次いってみよう!

〜ラーメンな街、荻窪〜

…ってウソウソ。体力の限界、気力もなくなり引退することになりました。というのは
千代の富士が引退する時に言った言葉ですが、極寒の中のフィールドワークは
ものすごく体力を消耗します。荻窪まで行ったのは本当ですが、なにもゴールデン番組
じゃないんだから2本撮りしなくてもよかろうということで、今回の東京フィールドワークは
これにて終了。駅ビルにあったバッティングセンターでおもいきり野球をやって帰ってきました。
ほとんど打てませんでした。

荻窪でバッティング。


ということで今回は踊りまくり、歩きまくりのフィールドワークでしたがみなさんいかがでしたか?
高円寺に行ってみたくなりましたか?…ってなりませんよねぇ。高円寺の名所にほとんど
行ってないんだもの。ただ踊ってラーメン食べてサッカー見て野球して。全然高円寺と
関係ないもんね。だいぶ趣旨と外れた旅でしたが、まぁこんな回もあります。
もう少し暖かくなったら、またすぐにでも飛んでいくでしょう。
ぼくは好きなんです。東京フィールドワークが。

さて東京フィールドワークも残すところあと2回。
次はどんな知らない街が待っているのでしょう?
うーんでも、10回は短いな。そろそろ計画的にいかなきゃな。
みなさんも素敵な街があったらぜひ教えてくださいね。

ではまた次回!

※今回は写真のサイズ設定を間違えたため、前半と後半の大きさが全然違います。びっくりしたでしょう。ごめんなさい。