「汐留」の由来は諸説あるが、外堀(汐留川)と三十間堀がつながり、海を堤防で潮留めしていたから、という説が正しいとされる。明治になり汐留橋にちなんで町名となった。 その後は鉄道用地として長く使われていたが、汐留土地区画整理事業に伴い現在開発が進んでいる。今後は5万人都市に変貌する予定。港区汐留。またの名をシオサイト。ビジネスマンが急ぎ足で過ぎる街。

首が痛くなる街、汐留

都会に新しい駅が完成したらしい!との情報が入り「よし、ならばフィールドワークで
行ってやろうじゃないの」ということになり、今回は噂の新駅「汐留」に行くことになりました。
そろそろ大都会を攻めたいな、と思っていた矢先の新駅誕生。それに大都会は
なんだかんだで1回は訪れたことがあるので、今回の情報は願ってもない朗報だったのです。
絵面がね、いいでしょ。都会は。バチっと決まるでしょ、都会は。でもそんなところは
だいたい行ってますからね。それに「新しい街が生まれる瞬間にぜひ立ち会いたい」という
まるで立会い出産に講じる旦那みたいな気持ちもあるにはあったのです。ということで
お笑いフォトグラファー(?)、オートバイさんと行ってきました、新しい街汐留へ。
そこは未来と過去が国道一本で隔てられた、奇妙な街だったのです。
ではご案内しましょう。今日もあなたの知らない東京がウヒヒヒヒ、もういいね。

今回は新橋から歩いてみます。新橋と汐留は隣り駅。歩いて10分。
ゆりかもめに乗る必要もたいしてありません。行きがてら街を見渡してみると、これが工事だらけ。
トンテン・ツクテンと大急ぎでやっています。「ん、まだなの?この街」と疑いの目で空を見やると
いきなり飛び込んできたのは日テレ新社屋。窓にはご丁寧にも「日テレ」の文字。さすがテレビ局。
でかい上に目立ちたがり。青空に映える日テレの文字。来年4月に開業予定ということで、
ぜひ来年は仕事で行ってみたいもんです。

そしてちょろっと歩くと、今度は劇団四季の新しい劇場「海」が見えてきます。
CMでよく見る「マンマ・ミーア」が近日上演される模様。ミュージカルだそうです。
「この結婚は、観る人までも幸せにする」のだそう。お客さん一杯入るんでしょうね。
マンマ・ミーア!!気持ちいいので叫んでみます。マンマ・ミーア!!SAY、マンマ・ミーア!!
誰も言ってくれません。淋しくなったので再びそこらへんを歩いてみます。


日テレ新社屋。これみよがし。
この街はまだ開発中のようだ。
マンマミーア!!


さて、一際目立つのっぽビルが見えてきました。電通の新社屋です。でかい!日テレよりでかい!
上を見上げるとどこまでも続く平面体。どっちが縦でどっちが横かわからなくなってきます。
飛行機がばんばん飛び去っていきます。気持ち悪いくらいの高さ。ずっと見上げていると
やがて首が痛くなってきてくらくらしてきます。それにしてもでかいなぁ。大丈夫かっていうくらい
でかいなぁ。すげぇなぁ電通。電通マン。商業主義の象徴、電通。広告社会の象徴、電通。
ということで、ここは潜入だ!電通マン気取りで受付へ行ってみました。
…ガードがきつい。ガードマンだらけ。素通りできないように自動改札みたいなのまである。
なんとか中に入れないものかと、受付嬢に聞いてみる。展望レストランをいい訳に。

「えっと、展望レストランに行きたいのですが」
「12月1日からでございます」
「あっ、そうすか」

明らかに怪しい目をして、ぼくを見る受付嬢。それもそのはず、みなさんお仕事や内覧会で
来ている模様。大丈夫、変なことはしませんよ。一応ぼくも虎ノ門という番組で、のび太が電通で
働いているという設定でコントをしたんですがね。ある意味ぼくも電通マンなんですがね。
しかしガードマンさえも怪しい顔をし始めたので、仕方なくまぎれて退散。マンマ・ミーア!と叫んで
帰ろうかと思いましたが、今日の目的はあくまでフィールドワーク。捕まることじゃありません。
次はぜひ仕事で。「CMタレントですが、何階にいけばいいの?」、「あ、吉川様。42階でございます」
日テレ帰りで行きたいもんだね。

さて工事を横目に汐留駅へと向います。くさい。なんかゴムを焼いたような匂いが
そこらじゅうでする。コールタールかアスファルトかは知らないけれど、これが街の生まれる
匂いなのか。街全体が人工的にくさいぞ。これが未来誕生の匂いなのか。
走っている車といったら、タンクローリーとかシャベル・カーしかない。
あれれ、汐留。お前まだ何にも出来てないじゃないかよ。駅の近くには前回の錦糸町でも
お会いしたJRAの場外馬券売り場を発見。もういいや。


電通ビルを見上げる。
電通マンにまぎれる。
タンクローリー。

クレーン
後方には宮殿風のJRA。
汐留駅に着いた。


だめだ。なにもありゃしない。というか完全に「これから」の街だ。「この街に何かありますか?」と
聞いてみても「現在開発中でございます」という答えしか返ってこないこと請け合い。
しかし着実に未来を作っている感じはする。ゼネコンの怒りにも似た勢いを感じる。
未来はすぐそこだ。ぼくは感じる。このなにかの焼けた匂いに。勇敢なクレーンに。
走り回る黄色いヘルメットをかぶったおじさんたちに。未来の予兆を感じる。
ぼくには見える。あの古典的な未来のイメージが。街をすり抜ける乗り物。近代的な建物。
こじゃれた会話とその奥に潜む凶器。アメリカンサイコ。そんなものたちの芽が見える。
「現在開発中」だらけの地図。新しい東京。人工的な白い光と、殺気立った人々が…お、お!!
古い東京発見!「浜離宮」(はまりきゅう)じゃないか。聞いたことあるけど行ったこと
ないじゃーん。み、み、み、緑が欲しい。ビルは首が痛くなるからもういい。
というわけで浜さん、あなたを頼りに行ってみることにします。


地図を見る。
建築資材と記念撮影。
浜離宮手前の歩道橋。


国道を隔てて、どかーんとあるのが「浜離宮」です。本名「浜離宮恩賜庭園」。
入場料は300円。ここの沿革をざっと説明するとこんな感じです。
「徳川家の別邸として江戸時代に作られた海辺の大名庭園で、歴代将軍たちによる
 造園・改修が施されたのち、明治維新により皇室の離宮となり、昭和20年に
 東京都のものとなり、整備したのち翌年より一般に公開されたし」。
まぁ早い話が徳川家の力の大きさが目に見える形でわかる、でっかい庭園です。
中に入ってみます。さっきまでの喧騒はどこへやら。ひろーい!みどりー!しずかー!
広緑 静(ひろみどり しずか)という名前を付けたいくらい、いいところです。
せんべいを買ったり、マンマミーアしながら、園内をうろついてみます。
若い人が誰もいない。なんでこういつも東京フィールドワークをすると年齢層の
高いところへ足が向くのか。すれ違う人がみんな40代以上。こういうところでね、
静かに本を読んだりとかさ、もの思いに耽るとかさ、いないもんかねまったく最近の…
「いないよ、そんなの」。おっとバイクさん。「そんな人もちょっと怖いよ」。
確かにそうか。浜離宮で寒い中ひとりで本を読んでてもな。「わー、紅葉きれいねー」なんて
言いながら散策してる女子高生たちもな。うーん、どうかと思う。ぼくは好きだけど。


浜離宮入り口。
せんべい。
食べる。

あまりのうまさにマンマ・ミーア。
庭園をうろつく。
ここはどうやら東京らしい。



猫がいたり、鳥が飛んでたり。しかし鳥を追って目線を高くすると必ずビルが視線に
入ってくる。ここはなんだ。なんなんだ。国道一本隔てて過去と未来がそれぞれ立ち並んでいる。
お互い威厳を放って。かたや徳川。かたや電通。それぞれ権力も財力もトップを走る(走った)人々。
寒いのでおでんを食べる。甘酒を飲む。あらためて風景を見渡す。メガネが曇って何も見えない。



浜離宮の小猫。
おでんを食べる。
甘酒で曇る。


この浜離宮のメインはなんと言っても大きな池。「潮入りの池」と名付けられた
なかなか風情のある池です。その池の真ん中には「中島のお茶屋」という茶屋があって
500円で抹茶が飲めたりします。いいねいいね、と「お伝い橋」を渡り行ってみると、
カモかサギかは知らないけれど、とにかくでかくて馴れ馴れしい鳥を発見。こいつが
ドラクエのボスみたいに行く手を阻んで通れない。そしてぎゃーぎゃーとわめき散らしている。
おいどうした、調子悪いのかと語りかけてみるもどうも様子が変。放っておくと追いかけてきて
足に噛み付いてくる。オートバイさん噛まれまくり。「それは飯じゃない、コンバースだ」と
言ってみるも効果なし。どうやらお腹がすいているようです。と、ここでせんべいを持った
おばちゃん登場。待ってましたとばかりぎゃーぎゃー言いながら追いかけていきます。
またこのおばちゃんが、まるで捨て猫を扱うかのように「そうか、そうか、お腹すいてるのか、
よーちよーち」と鳥にせんべいあげまくり。最後は水に浸して何枚もあげていました。
でも味濃いからねぇ。奴も調子乗るしねぇ。日光の猿状態にならなきゃいいけど。

その後中島のお茶屋に入り、おばちゃん連中と抹茶を一杯。そういえば巣鴨でも
飲んだなぁ。やっぱり俺はじじくさいのかなぁ。はぁ、池に映るはビルの群れ。
庭園が商業主義に囲まれているぜ。浜さん、もう身動きは出来ないね。
あーあ、いいのかね、こんなのでと愚痴をこぼしながら抹茶をすすり(それがじじくさい)、
再び景色を見渡す。…メガネが曇って何も見えない。


お伝い橋を渡る。
でたな鳥!!おれが相手だ。
オートバイ噛まれる。

まぎれる。
抹茶で曇る。
オートバイはいい写真をとる。


秋も暮れて、寒くなってきました。っていうかもう冬です。夕方過ぎると寒いです。
フィールドワークもこれから屋内がいいな。でも冬の散歩もこれまたいいんですけれどね。
そんなことを考えながら紅葉を見たりします。サンキュー、浜さん。ありがとう、徳さん。
やっぱりあんたはすごいよ。城作ったり、庭造ったり、敵倒したり、すごいよ。
でも今はいかに物を売って、金を稼ぐかというビジネス戦争の時代なんだ。
関が原の合戦であんたは勝って、長期政権をものしたけれど、これからは
汐留の合戦で勝たなきゃ、天下は取れないんだ。いまでも戦いは続いているよ。
これからは城じゃなくて、見上げると首が痛くなるくらい大きなビルを建てて、
戦わなきゃいけないんだ。なぁ、徳さん。なぁ、電スケさん。景気はどうだい?
今度タッグを組んで仕事をしないかい?あ、そうだ今度CMに家康使ったらどう?
いいじゃーん。カッコイイじゃん。「困った時の」みたいなさ。じゃあオレ家康ぅ!!
「出陣じゃー!!」みたいなやつ。あ、なんかそれみたことあるな。全然ダメだ。

さぁ汐留の合戦はもう間近です。過去は捨て去り、未来です。
浜離宮をあとにし汐留方面へ戻ると、この街がやはり着実に未来へ向っていることが
わかります。あの古典的なイメージに近い未来がもうすぐやってくるかもしれません。
今回は「東京」のわかりやすい部分を見ました。あの浜離宮から出たあとの現実感ときたらないです。
あれだけで、なんとなく東京の「いま」がわかった気がします。ガッテンガッテンです。
景気が悪いと言われながらも、ここだけは躍起になってバブル期みたいにボンボンと
ビルを建てまくっています。来年にはその全貌が明らかになることでしょう。
ぼくらは再び、上を見上げながら首をさすり、「にしても、でけぇなぁ」と呟き、汐留をあとにしました。
いつの間にか「マンマ・ミーア!!」と叫ぶ元気もなくなっていました。


すっかり紅葉です。
浜離宮を出て、再び見上げる。
未来はそこまで来ています。


ということで第6回東京フィールドワークも無事終了。
次はどこの街に行きましょう?とりあえずもうでかいビルはいいや。
飽きる。