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あと5分で

2005,12,12,Monday

夜遅くに、初めて弟が部屋にやって来た。友だちといっしょに。「今ドライブで近くにいるけど行ってもいい?弟」と突然メールで聞いてきた。わたしは「いいよ」と返事をした。それから、わたしはただ待っていたのだけれど、「いったいどうやって来るのかな」とずっと考えていた。いくらたっても場所を訊ねてこないのだ。わたしは、いまどこらへんにいるのかと聞いてみた。そうしたら「あと5分で着く」という返事が返ってくるのだ。いったいあと5分でどこに着くのだろう、とわたしは思ったけれど、とにかく待っていた。すると今度は電話がかかってきて、近くのコンビニに着いたという。どうしてわかったのか不思議だったけれど、わたしはかれらを迎えに下まで降りていった。朝起きたら散らかっていたはずの部屋がすっかり片づいていた、とでもいうような、なんだか騙された気分だった。

弟はもうマンションの前にいた。わたしにビールを買ってきてくれた。それでコンビニに寄っていたのだ。どうして場所がわかったのかと聞いてみると、なんのことはない、どうやら前にわたしが教えたらしかった。わたしは自分が弟に引っ越し先を教えたことをすっかり忘れていた。それにしても記憶力がいいなとわたしは思った。それに勘もいい。かれはマンションの名前まで覚えていて、わたしは妙な気分だった。なんだか当たり前のような顔をしてあまりにもスムーズにやって来たからだ。

弟の友だちは猫アレルギーだった。部屋に猫がいることを知ったとたん、友だちは玄関に引き返してしまい、そこから一歩も動こうとしないのだ。弟が「大丈夫だって!」と説得しても、「それだったら先に帰る」などと弱々しくいっている。その姿はなんだか可笑しかったけれど、本人にとっては一大事である。よほどの猫アレルギーなのだ。わたしはグリを押し入れに隠した。部屋が安全になったことを告げると、おそるおそる友だちは部屋に入ってきた。グリが押し入れを開けようともがいている音が聞こえてきて、わたしはひやひやしながら、もらったビールをさっそくひとりで飲みはじめた。かれらはベランダに出て夜景を見ていた。わたしは夜景がよく見える部屋に住んで、本当によかったと思った。

弟が「猫を見たい」というので、今度は友だちを台所に閉じ込めて、その代わりにグリを押し入れから出した。友だちを押し入れに閉じ込めるわけにはいかない。グリは弟の匂いを嗅ぎまわり、手の甲をしきりになめていた。初めて会う弟の前では借りてきた猫のように大人しいのだった。真っ黒だね、と弟はいっていた。肉球も黒いんだよ、とわたしは教えてあげた。

弟の性格からすると、きっとすぐに帰って行くだろう、とわたしは踏んでいた。すると案の定、かれらは長居をせず、20分かそこらで帰って行った。次になにかすることがあるのだ。弟は「また来るよ」といって靴を履いた。わたしはちょっと待って、といってカメラを取りに行った。玄関にふたりを並べて写真を撮った。「写真嫌いなんだよ」といいながら、「フラッシュ焚いた方がいいんじゃないの?」などといって、しっかり写真におさまろうとするのだった。

2005, 12, 12, Monday

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