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レクター博士

2005,01,28,Friday

今日はモスバーガーに行ったんですが、って今日だけじゃなくてしょっちゅうぼくはモスに行ってるんですけど、いやあ、世の中には変わった人がいるもんですね。つくづく驚かされます。今日はですね、すごく変わった人を見ましたよ。その人は、すごーく、すごーく、変な人でした。というか、もう、ちょっと恐怖すら感じましたよね、正直いって。

まあはじめからいやな予感はしていたんですよ。ぼくはもうなんだか隣の席に人が来ただけで最近はすごくなんというのか、警戒するというか「もう来るな!」という感じなのですね。女の人ならまだいいんですけど、男が来たりするともう「帰れ!」と思ってしまいます。「お前が帰らないんだったら俺が帰る!」とすら思います。まあ帰りませんけどね、思うだけで。

その人はたぶん50過ぎのおっさんでした。ぼくはもうさっそくいやだなあと思いました。変な人が隣に来ちゃったなあと。なんか変なんですよね。隣に人が来た。それも男。しかもおっさん。ってだけでもうぼくの嫌悪感を喚起するに十分なのですが、そういう諸条件を超えた「変さ」みたいなのがそこはかとなく漂っているのです。そういう直感みたいなものって、それほど間違ってないことが多いです。なにか言語化できない、おかしな気配みたいなものを人間って感じ取っているんですよね、きっと。ああ、危ないのが来たぞ、気をつけろ、というわけです。まあ酷な言い方ではあるかもしれないけれど、生存戦略上、これは致し方のないことです。あるいは最終的にはその直感は的はずれである可能性だってあります。でもまずは人を警戒させるなにかが、そのおっさんにはあったわけです。

ぼくはオニポテとマスタードチキンバーガーを食べ終えて、コーヒーを飲みながら本を読んでいました。でもその人が隣に座ってからはその人のことが気になってもう一行も読み進められません。その人のテーブルの上にはプラスチックの番号札が乗っています。それをなにかとても物珍しそうに子細に眺めると、次に今度はこれまたテーブルに載っている紙ナプキンを入れておくやつを手にとって眺めはじめました。モスのお客さんというのはまあだいたいセットメニューを頼む人が多いのですね。そうすると必然的にテーブルの上には番号札と飲み物が置かれることになるわけです。ハンバーガーとかは時間がかかるので後から持ってきてくれるわけです。番号札を頼りにして。でもその人のテーブルは番号札だけだった。だからぼくは「この人はいったいなにを頼んだのだろう」と思っていたのです。

するとそこへ彼が頼んだものが運ばれてきました。思わず凝視せずにはいられませんでした。そしてぼくは何度も目を疑わなければならなかった。トレーの上には、(1)フライドポテトL(2)コーンポタージュスープ。まあここまではいいとしましょうよ。だがしかし!(3)ミネストローネ(4)おしるこが乗っていたのです。飲み物ばっかかい!

いやね、別にいけないとかいってるわけじゃないんですよね。なにを頼んで、なにを食べようと(なにを飲もうと)それは本人の自由ですから。当たり前の話ですけど。でもですね、その組み合わせはちょっと異様でした、はっきりいって。こんなおかしな組み合わせは見たことがない。ぼくの世界にはそういった組み合わせのオーダーは存在していないのです。あと100万回モスに行ってもそんな注文は思いつきもしないでしょう。

それにしてもモスの商品の組み合わせだけで、こんなにも異様なムードを漂わすことができるのですね。ぼくは驚きと共に、ちょっぴり感心せずにはいられませんでした。なんだか料理を前にしているその人の佇まいが『ハンニバル』のレクター博士みたいなんですよね。赤と黄色と黒、3種類の液体を使ってなんかの実験がはじまりそうな雰囲気でした。ポテトはかき混ぜ棒にでも使うのでしょうか?

さて、ぼくの予想を大幅に逸脱して、レクター博士が最初に手をつけたのは「おしるこ」でした。ほとんどありえませんね、これ。そしてどういうわけか3つの飲み物のためにひとつずつ付いているスプーンを、博士は「おしるこ」のためにふたつも使っていました。意味がわかりませんね、これ。

でね、こんなに人の食事風景を観察してる俺もどうなんだと思うのですが、おしるこ、ミネストローネ、おしるこ、ミネストローネみたいな感じで食べてるわけです。ふつうに(まさか、おいしいのでしょうか?)。そしてそれをときおりコーンポタージュスープで流し込むわけです。「ははあ、博士にとってはおしることミネストローネが主食でコーンポタージュスープが飲み物に当たるわけなのですね」とクラリス=ぼくが分析していた矢先にそれは起こりました。コーンポタージュスープの中にポテトを入れたのです!そしてやおら立ち上がるとレジの方に行き、さらなる飲み物である「水」をもらって帰ってきました。これで4種類の液体がテーブルの上に並んだことになります。「なるほど。飲み物に当たるものがなくなってしまったことに気づかれたのですね」とぼく=クラリスは思いました。「だから純粋な飲み物としての水をもらってきたのですね」と。

結局、博士はスープに浸したポテトをすべて食べ、すべての液体を余すことなく飲み干すと、すぐさま立ち上がり帰って行きました。「ああ助かった」とぼくがほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、博士はすぐに店内に戻ってきた。まるでゾンビ映画のように。そして博士は店員さんにもう一杯水をもらい、それを一気に飲み干すと今度こそ本当に帰って行ったのです。

と、まあ、それだけのことです。でも不思議ですね。なんとなくなその人の佇まいと、ただなんてことのない商品の組み合わせが、こんなにも恐怖心をかき立てるのです。ぼくはほんとに恐くてたまりませんでした。早く食べ終わってくれ、とただそれだけを願っていた。もう本を読むどころの話ではありませんよね。恐かったなぁ…。

2005, 01, 28, Friday

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