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盛大な拍手を

2004,10,05,Tuesday

雨の日には家は楽器になる。雨という音楽家に叩かれそれぞれいろんな音色を奏でる、巨人のための打楽器になる。おれの部屋は二階にあり、すぐ真上に平らな屋根がある。雨の音をずっと聴いていると、屋根が湖の水面で、おれの部屋は湖の底のような気がしてくる。動物の皮の代わりに湖を張った太鼓の中のおれの部屋。さまざまな素材とさまざまな部分に落ちてはじける雨垂れのレイヤーの布置を、おれは頭の上の吹き出しのように思い描く。湖の底で眠る魚が頭上の空を想像するように。やがておれの頭の中と屋根の位置が対応しはじめる。後頭部の方で湖面に降り注ぐような低くくぐもった柔らかい音がつねにリズムをキープしている。額の左右をいったりきたりするカツカツと甲高いあの音はなんだろう。右耳の上あたりには川が流れている。雨樋を伝い落ちる音かな。それとも詰まった雨樋をあふれ出して不自然に地面へと落ちる水の流れの着地音かもしれない。

おれの身体はいつのまにか眠りのモードに入っていて先週の睡眠の不足を埋め合わせるかのように眠ることを求めているので、雨の日の猫のように眠いおれは雨垂れが催眠術のように効いてくる。いつのまにかおれは眠っている。そして新たに加わった音で突然目が覚める。雨漏りの音だ。おれは部屋の中にあるものを使って雨漏りを受け止める。ビール瓶、使わなくなった灰皿。さらに新しい音が加わる。屋根から天井へぽつぽつと一滴ずつ一定の間隔で。その間隔よりも長い一定の間隔で天井から染み出したしずくが瓶の中やブリキの灰皿の上に落ちる。夜になり、ようやく雨垂れのBPMが下がりはじめると、このひさしぶりに長く続いた演奏ももうすぐフィナーレを迎えます、みなさま、雨のために盛大な拍手を。というような気分になる。嘘。ならない。降りすぎ。うんざり。

2004, 10, 05, Tuesday

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